【積水化学グループ】「緑の脱炭素工場」へ 生物多様性保全に向けた積水メディカル岩手工場の挑戦
2030年に向けた目標「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」は、地球上の陸と海の30%を健全な生態系として保全することを目指す国際的な取り組みだ。この目標の背後には、加速する生物多様性の損失を食い止め、持続可能な未来のための健全な生態系を確保する(ネイチャーポジティブの実現)という緊急の必要性がある。しかし、保全目標を達成するためには、従来の国立公園などの保護地域だけでは不十分で、OECMの役割が非常に重要となる。
OECMは、保護地域外の里地里山や企業林など、地域、企業、団体によって生物多様性の保全に貢献している地域を指し、保護地域外でも自然保護の取り組みが認められ、これによりその保全が推進されることになる。このようなアプローチは、生物多様性の保全だけでなく、地域社会の生計向上や気候変動への適応など、さまざまな利点をもたらす。
「自然共生サイト」として認定
積水化学グループに属する積水メディカル岩手工場が環境省「自然共生サイト」に認定されたことは、産業界における環境保全への意識の高まりを象徴している。
自然共生サイトとは「民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域」を国が認定する区域。事業活動を行いつつ、地域の自然環境を積極的に保護し、生物多様性の維持や向上を図る施設やエリアを指し、OECMの取り組みを推進する認定制度だ。
豊かな自然に囲まれた積水メディカル岩手工場
岩手工場は、十和田八幡平国立公園に隣接する地域に位置し、45万㎡に及ぶ敷地のうち、大部分を自然のまま保持している。この地域は、奥羽山脈北部の山々と北上川水系長川流域の低地帯が織り成す独特の生態系を形成しており、工場敷地内では951種の動植物が確認されている。
中でも、特別天然記念物に指定されているカモシカや天然記念物のヤマネなど、希少な生物22種が生息していることが岩手工場の自然共生サイトとしての価値を際立たせている。この認定は企業が生物多様性の保全に貢献できるという示唆に富む事例であり、産業界全体にとっても重要な意味を持つ。
敷地内に生息するカモシカ
そもそも岩手工場は自然に配慮した「緑の公園工場」をコンセプトに生まれたのだという。1973年工場用地として取得した時は、林野の中に畑などの耕作地が点在し林野部を分断していたが、50年の歳月を経て工場の建屋を取り囲むように自然林が形成され、動物たちが自由に活動できる場所になっている。また敷地内の複数の湧水池は、両生類、水生昆虫やトンボのヤゴなど野生生物が水場として利用するビオトープとなっている。
自然利用と技術革新 持続可能な工場運営への取り組み
岩手工場での環境への配慮は、排水処理システムや自然エネルギーの利用という形で技術的な革新にもつながっている。工業用水としては岩手名水20選にも選ばれた長者屋敷清水が利用されており、これにより年間388万1,000㎥の水が供給されている。
積水メディカル 岩手工場 管理部 石山正文
「岩手工場では医薬品原薬を作っています。薬を作る際には大量の水を使います。それもきれいであればきれいなだけいい。というのも、水は製造時の冷却水として使うほか、機器の洗浄にも使います。汚れている水だと装置を傷めてしまうこともあるのです」
そう話すのは、石山正文管理部長だ。
岩手工場の「緑の公園工場」という理念は、ただ工場を建設するだけではなく、周囲の自然環境との調和を図りながら持続可能な生産活動を行うことを目指している。
工場の排水は、1991年から従来の好気処理(活性汚泥処理)に加えて、嫌気処理と合わせた二段階生物処理を行っている。
「使用した排水を発酵させてメタンガスを生成し、これを燃料として利用しています。そうすることで従来の燃料使用量を大幅に削減することができています」(石山)
排水の水質を常時管理している
どのような流れなのかを実際に図を見せてもらいながら説明を受けた。それによると排水時には、法規制値や八幡平市の協定値より厳しい自主規制を設定し、pHやシアン濃度など主要管理項目を常時監視しているという。処理水はニジマスやコイなどが生息している生物観察池(約400立方㍍)での目視観察も行う。
「水道水の安全性を確認するための重要な指標である生物化学的酸素要求量(BOD)では55ppmの協定値に対して、35ppm以下を自主規制値とし、自ら厳しい規制をかけています」(石山)と自然環境の負荷低減を強調する。
排水に問題が無いことを確認後、北上川水系長川に放流している。規制だけでなく、汚染水が外部に排出することを防止するため二重の非常貯槽も備えている。
このような環境配慮型の技術革新は、CO2排出量の削減に寄与し、地球温暖化対策にも貢献している。これらの取り組みは、企業が環境保全と経済活動を両立させるための模範となりうる。
自然に配慮した工場の取り組みとその進化
岩手工場では、現在従業員たちがエリアのメンテナンスを積極的に行っている。陣頭指揮を執るのは岩手工場管理部安全環境課の川口和孝課長だ。
積水メディカル 岩手工場 管理部 安全環境課 川口和孝
「工場内林野部の日陰の未成熟広葉樹を植え替えて育て、枯れてしまった人工植林針葉樹のあとに植えています。今はどんぐりやくるみを拾ってきて発芽させる活動も始めています。これらは工場の環境マネジメントプログラムの中で計画化されています」
従業員たちと共に工場内の自然のメンテナンスを行うのは、植物だけではない。
長年にわたり岩手工場に勤務し、現在は環境業務に従事している安全環境課の松澤恵一が話す。
「緊急用の貯留槽にモリアオガエルが卵を産むようになりました。しかし、万が一異常事態が発生した場合には、ポンプを回してここから水を吸い上げなければなりません。そこで、貯留槽内に産み付けられた卵を回収し、雨水を溜めた300Lのプラスチック貯槽に移植することにしました。卵はそこでカエルまで育ち、無事山へ帰っていきました。今では貯槽も増やし、そこへ直接カエルが産卵をするようにもなっています」
初夏に産卵を迎えるモリアオガエル
移植するだけでなく、生物が暮らしやすいようビオトープもつくったという。きっかけはサンショウウオの産卵だった。松澤が続ける。
敷地内の湧水池を確認する安全環境課 松澤恵一
「工場の隅の雨水側溝に環境省レッドリストの準絶滅危惧種であるトウホクサンショウウオが多数の卵を産卵していることが分かりました。しかしその貴重な卵はほとんどがふ化できませんでした。水の流入不足による酸素不足が原因と考えられます。そこで2022年、工場建屋に比較的近い林野部との緩衝地帯にあったササやぶを開拓し、小規模のビオトープを作りました。直径1m程度の池を3カ所掘っただけですが、ちゃんとトウホクサンショウウオがやってきて産卵し、立派な成体になって巣立っていきました」
従業員が整備しているビオトープ
無事に育ったトウホクサンショウウオ
あるべき場所へ移して命をつないでいく取り組みは安全環境課全員で行っているという。こうした取り組みは、CO2削減という大きなテーマにもつながっている。
「岩手工場はエネルギー使用量が多いので、削減の取り組みは2012年ごろから進んでいました」と話すのは前出の石山だ。「エネルギーを重油から液化天然ガス(LNG)に変えてCO2排出量を削減し、2021年には電気を再生可能エネルギーに順次切り替えていき、本年度(2023年)は85%が再生可能エネルギー由来の電気を使用しています」
2024年、そしてこれからはどうなっていくのだろうか?
「岩手工場で使うエネルギーは、2024年には電力由来のCO2がゼロとなる見込みです。ただ、私たちが見ているのはその先のエネルギーづくりです。太陽光発電などを通じて、外部からの購入ではなく自分たちでエネルギーをつくりだす取り組みが次のステージになるでしょう」と石山は今後の展望についても教えてくれた。岩手工場は、まさに「緑の公園工場」から「緑の脱炭素工場」へ進化を遂げようとしている。
「緑の脱炭素工場」へ 生物多様性の向上と未来への責任
岩手工場では「手を入れないことによる自然保護」を続けてきたが、近年では落葉広葉樹の植林に力を入れ、元来この地域に存在する植生を重視した樹林化を進めている。これは、人工植林木を徐々に削減し、地域固有の生態系を復元しようという意図に基づくものであり、これにより生物たちが本来持つポテンシャルを最大限に引き出すことが可能となる。人間目線での「緑の公園工場」に加え、石山が話したように社会に対して脱炭素につながる「緑の脱炭素工場」となることを目指しているという。岩手工場に限らず、積水化学グループは、2050年に“生物多様性が保全された地球”を実現することを目指し、製品や事業といった企業活動を通してさまざまな自然環境および社会環境課題の解決を進めている。企業活動で利用した地球上の自然資本、社会資本に対して、地球上の課題解決をすることで、100%以上のリターンに貢献することを目指しているのだ。当然このミッションをクリアするためには脱炭素の取り組みも欠かせない。岩手工場はこのグループの方針を体現しているといっていい。「緑の脱炭素工場」を目指す取り組みは、人間だけでなく地域の生物にとっても理想的な環境を提供することを目標としている。このような長期的な視点に立った活動は、未来世代に対する深い責任感と持続可能な社会への貢献意識を反映している。積水メディカル岩手工場の取り組みは産業活動と自然保全の調和が可能であることを示し、他の企業や地域社会にも大きな影響を与えていきそうだ。
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