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今日が、残りの人生の最初の1日。

フィリピンで活躍する日本人アーティスト、近藤太一が「ハーフ」としての葛藤を個展のテーマに。

著者: 株式会社REGALO

トラベルインフルエンサーとして活躍する近藤あやの兄としても知られる、フィリピンで活躍する日本人アーティストTaichi Kondo(近藤太一)が首都マニラのSECRET FRESH GALLERYにて7月21日より個展を開催する。

4度目となる個展のテーマ「DUAL(デュアル)」に込められた想いや、アーティストとして目指す姿についてインタビューしました。

▲2023年にピント美術館で開催された個展にて、妹近藤あやさんとパートナーのKeiさん


「DUAL(デュアル)」が解き放つ、「ハーフ」の違和感

■父の死と新たな情熱の発見、会社員からアーティストに

▲個展に向けて制作中の太一さん


ーーー 太一さんは会社員からアーティストに転身されたんですよね。

太一さん「僕が就職活動をしていた時期は、リーマンショックの直後だったり、大学の卒業式前日には東北の震災があったりと、世の中が非常に不安定な頃でした。

 僕に限らず、僕たちの世代は割と、『チャンスをもらえてなんぼ。やりたいことであるかどうか以前に、与えられた仕事を一生懸命頑張る』という傾向があったと思います。

 そんな時期に父が亡くなるという経験もあり、仕事以外にも何か熱中できるものを探さないとヤバいなと感じたんです。

 そんなときに、父が仕事の傍ら趣味の手品に本気で取り組んでいたことや、幼い頃に自分が描いた絵を父がよく褒めてくれたことを思い出しました。

 それが動機となり、地元埼玉で絵画教室を探し、その後私の師匠となる現代アーティストの田中拓馬さんが開設されていた絵画教室に通うことにしました。」


ーーー アーティストではなく絵画教室の生徒になったんですね。

太一さん「しばらくはただの生徒で、会社員として働きながら月謝を払って絵画教室に通う生活を4年半くらい送っていました。

 絵のスキルアップのために通い始めたんですが、写実的で忠実なものを描くことではなく師匠の田中拓馬さんからは現代アートらしい、もっとパンチのある表現が市場に求められていることを教わりました。

 そうしてアーティストとして世に出るチャンスを伺いながら過ごしていたある時、たまたま出張で訪れていたフィリピンで帰国直前の僅かな自由時間に、現地のギャラリーを自分の作品を持ってまわったんです。

 その中の1つのギャラリーが作品を気に入ってくれて、そこから徐々にアーティストとしての機会を頂けるようになり、会社を退職してアートの道を選択しました。」


■フィリピンのアートシーンと近藤太一の使命

▲大盛況だった昨年のピント美術館の個展の様子


ーーー フィリピンのアートシーンはどんな特徴があるのでしょうか

太一さん「フィリピンには元来、アーティストに対するリスペクトがあるんですが、そこに現在のフィリピンの急激な経済成長の勢いも加わって、従来のフィリピンらしいアートだけでなく、様々な文化の影響を受けた現代アートが今では主流になりつつあります。

 フィリピン国内だけでなく、少しずつ世界の注目も集まり始めていることもあり、国内のアートギャラリーもユニークなものや真新しいものを求めるようになってきました。

 これまでは、アーティストとしての自分の基盤を築く意味もあって、分かりやすく求められている作品を創っていた側面もありましたが、ようやく自分の内面を作品に映し出すという本来のアーティストとしての活動ができ始めたと感じています。」


▲今回の個展の立役者Derek Floresとのショット


ーーー 太一さんが目指すアーティストとはどんなものですか?

太一さん「ここまで来られたのは、DF ART AGENCYの創業者であるDerek Flores氏をはじめ、日本との親和性が高い業界のリーダーたちとの出逢いが大きいと感じています。

昨年7月にフィリピンを代表する現代美術館、ピント美術館において初公募から選出された唯一の日本人として個展を行いました。

 この個展によって、アーティストとしてより広く知られる機会を得ることができましたし、Derekさんとも出会うことができ、次の個展開催にも繋げることができました。

 とにかくこれがアーティストとして、ようやく認められた大きな転機となったと感じています。

 だからこそ、まずはフィリピンのアートシーンに貢献したいという気持ちを強く持っています。

 僕はアーティストの役割は、イノベーションを起こすことだと思っているんです。

歴史的に見ても、その時代でタブー視されていたことをアートに落とし込んで、人に訴えかけたり、人々の価値観を180度変えてしまうような影響を与えてきたのがアーティストなんです。

 じゃあ僕に何ができるのかを考えてみたときに、フィリピンのイメージを向上させることを目指して、本質的なフィリピンの良さを社会に発信していきたいし、それをやりがいとしていきたいなと思ったんです。」


■ハーフという和製英語がもたらす大きな障害

▲個展DUALを象徴する作品


ーーー 今回の個展に込められた想いとはどんなものなのですか?

太一さん「テーマは【DUAL(デュアル)】なんですが、これは、いわゆる”ハーフ”という日本独特の表現、言葉に対する対抗心を表現したものなんです。

 自分が日本とフィリピンのハーフであるということを幼い頃は人に隠したり、逃れようとしていたりしました。当時の日本でハーフと言われることや、見られることは、必ずしも良いことばかりではありませんでしたから。

ただ、大人になるに連れ少しずつ自分の捉え方が変わってきて、大学在学中にオーストラリアへ海外留学したりする頃には、むしろ将来的にアドバンテージになるはずとの見通しまでつくようになっていました。」


ーーー そもそも海外ではそんな言い方しませんよね。

太一さん「そうなんですよね。

これらの体験を通じて、改めて日本における”ハーフ”という言葉のバックグラウンドに興味を抱くようになりました。(※詳細は文末の個展テーマ資料を参照)

 日本に古くからある純血主義的思想の中で、”ハーフ”という言葉だけが一般化していき、その言葉が持つ意味や偏見、不安については、当事者たちだけが抱えているべきものとして、大人たちや世間は向き合って来なかったのではないかと僕は感じています。

 実際に、ハーフという言葉によって、日本人でもないし、フィリピン人でもないと自分は何なんだろうと悩んでいましたしね。」


ーーー 現在はどのように感じているのでしょうか。

太一さん「日本の外に飛び出してみると日本人でもあるし、フィリピン人でもあることが自分の個性となる場面に遭遇することも多く、『そうか、自分は【デュアル】なんだ』と捉え方を変えただけですごくポジティブになり、ようやく自分のアイデンティティが確立できたような気がしたんです。

 そういう意味でも、フィリピンで影響力のあるギャラリーで行う個展において、”ハーフ”という日本語がもたらした葛藤や苦しみを世界に発信できることは、メッセージ性が非常に強く、自分のアーティストとしての役割を果たす良い機会になるんじゃないかなと思っています。」



▲個展DUALに込めた想い:テーマ資料




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