震災が私にもたらした能力《第2話》ー祖母からの伝言ー
祖母からの伝言
混乱する病院の中で、ひっそりと息をひきとった祖母。
姑がとにかく厳しい人で、表立って何かをすることを全く許されなかった。
そのせいもあり、いつも陰でじっと身を潜めて生きているような人だったから、私もほとんど祖母と過ごした記憶がない。
私の相手をしてくれたのは、いつも祖父か、ぴいちゃんと呼んでいた曾祖母だけで、しかもこのぴいちゃんがあまりにも強烈なキャラクターだったこともあり、祖母の存在は私の中ですっかり陰の薄い物になってしまっていたのだ。
その祖母が必死で私に何かを伝えようとしている。
この段階になって、ようやく私が占いに見てもらわなければいけないという思いに駆られたことの意味が分かった。
私は仕事運や健康運を見てもらうためにここに来たのではない。
祖母の伝言を聞くために、祖母が私をここまで連れて来た。確信を持ってそう思えた。
震災からおよそ4カ月が経っていた。
そう告げると、再び、霊媒師が口を開いた。
やはりそうだったのだ。
みんながあのホームに入れたことを後悔してる。
だから出て来たって言ってるけど、なんのこと?
祖母の住んでいた家には、祖母の他に祖父と叔父の3人が暮らしていた。
祖父も高齢で一人ではほとんど動くことが出来ず、叔父がハウスで野菜を育てながら2人の面倒を見ていた。
その現状を知っていた訪問介護の職員さんがずっと一日でも早くホームに入れるように奔走してくれていたらしい。
そして、ようやく空きが出て、一日も早くということで入所したのが震災の前日の2011年3月10日だったのだ。だから、
ホームに入れることを決めてしまった叔父が、
ホームに入れるように奔走してくれた職員さんが、
ホームに入ることに賛同した人たちが、
みんな、みんな後悔していた。
震災から数週間経った頃、ホームの職員さんが祖母の家を訪れた。
そして、
と言って土下座したのだ。
そのホームには100人近い老人たちがいたらしく、このすべての人たちを救おうと、安全な場所に老人たちを移動させるために、職員全員で老人を抱え何度も何度も階段を上り下りしたらしい。
そして最後には力つきて全員が倒れ込んだ。
そこにいた老人たちは見殺しにされた訳ではない。
みんな必死だったのだ。
それでも救えない命があった。
そんな話を聞いていて、誰も彼を責められるはずもない。
まして責めるつもりなど、誰にもなかった。
この人だって、苦しいのだ。
事情を説明すると、霊媒師が再び口を開いた。
そいでな、こう言っとるよ。
「私は、あのまま生き続けても、みんなに迷惑をかけるだけだから、自分で死ぬことにした。自分で死ぬって決めて、死んだんだ。誰のせいでもない。私はいまとても幸せだから、だれも後悔したり、悲しんだりする必要はない。このことを帰ってから、かならずみんなに伝えてくれ」
って。
どっと涙があふれて来た。
祖母は混乱する周りの様子を見つめながら、自分で考え、自分で決断したのだ。
自分はもう逝ってもいい
と。
それで誰にも気づかれないように、そうっと息を引き取った。
祖母はなんとなく気づいていだ、これからどれだけ大変な日常がやってくるのかということを。
祖母は知っていたのだ、本当はホームに入れるようなお金などなかったことを。
だから最後は祖母らしいやり方で、
誰にも迷惑をかけないように、
誰にも知られないように、
そうっとあの世に旅立っていった。
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