24歳ナースが、インドでチフスになった話

1 / 4 ページ

その年の夏、私はインド北部を東から西へ1人旅をしていた。
中国・チベットからネパールを経て陸路でインドに入国し、行く先々で迫ってくる夜這いや物乞い、野良犬や野良牛にも慣れた頃の話である。   

   悪夢の始まり                        

今もパキスタンとその国境を巡って争いの絶えないラダック地方のレーという町を目指し、その途中にある山間の町マナーリーに滞在していた。

明日にでもレー行きのバスに乗ろうとチケットを予約した日の昼下がり、突然の発熱と強い倦怠感に襲われる。
その日のうちに病院へ行き、拙い英語でインド人の女医に事情を説明し血液検査をすることに。

検査の結果を待っている間も、見慣れない華氏表示の体温計が示す数字はぐんぐん上昇していく。

ぼんやりする頭で
"ガンジス川で泳いだのがマズかったのか、それとも砂漠で失敬したヤギの乳にあたったか?"
"デング熱だったら嫌だなぁ、もしかしたらマラリアかも…"
と考えている私に、医師が言い放った病名は少し意外なものだった。

「You have Typhoid」
"Typhoid....タイフォイド?うーん、なんだっけ?
あ、Typhus !チフスだ!
でもちょっと待って、私、チフスはワクチンを打ってきたんですけど…"

どうやら私が感染したのは、ワクチン未開発の"パラチフス"という感染症らしいのだ。

実はこのパラチフスは我が国の感染症法に指定される感染症5類のうち3類に分類され、なんと狂犬病やマラリアよりも格上にランクインしている。
あのコレラと同等に危険視されている病気だったのだ。 
(ちなみに最上級の1類感染症には、かつてヨーロッパの全人口の3割が命を落としたというペスト、中央アフリカはコンゴ出身、抜群の感染力と致死率で村を地図から消し去るのが得意なエボラ出血熱、そして現在のワクチンの起源でもあり、ジェンナーとかいうマッドサイエンティストがその名を歴史に刻んだ天然痘など、錚々たるメンバーが名を連ねている。) 

検査結果をヒラヒラさせながら、医師はチフスはとてもポピュラーな病気だからと説明した。
病室に行くと、同じくチフスにかかったというイスラエル人男性がベッドに横になっていた。
チフスがポピュラー?私は日本で消化器外科病棟に勤務していたのだが、チフス患者などお目にかかったことは一度もない。

現在の日本では歴史に埋れてしまったような感染症が、ここインドでは今だに多くの人の命を奪い続けていることを実感した。

体験、インド式看護

さて、原因がわかればさっさと治療である。
刺激物の摂取は禁止、点滴による抗生物質投与と電解質補液、解熱鎮痛薬の投与がスタンダードな治療となる。(たぶん。) 

しかし、ここはインドの田舎町。
私が知っている医療の常識は通用しなかった…。

まず驚いたのは点滴ボトルの保管場所がなんとベランダ!
野鳥がボトルの上に止まりさえずっているではないか・・・。

みんなの読んで良かった!