息子の誕生からそろそろ1年が経ちます(後編)

再び分娩室に入った

翌日の10:00を過ぎたあたりでしたかね。

奥さんが再び分娩室へ入ったんですが、ほぼ無睡眠状態で分娩室へ入った奥さんと僕。そして、奥さんのお母さん。

入ったはいいものの、なかなかに進捗できない…

いくら息んでもダメ…

陣痛促進剤を投入することに。

その間、ずっと奥さんは…

奥さん
いぃぃぃぃぃぃいいいいぃぃたあぁぁぁぁぁあぁぁあぁあぁぁあいいぃぃぃぃいぃぃぃぃよぉぉぉぉぉぉおぉぉぉお…

と、繰り返すばかり。

彼女の方がしんどいのは分かっていたんですが、正直、ボクもしんどかったです。

隣にいても何にも出来ない上に、痛がっている彼女に対して、出来ることと言えば励ますか、”腰の辺り”をさすること。

陣痛促進剤を投入した【おかげ】で強い陣痛が起こるようになり、同時に彼女が痛がる回数と間隔が延びました。

前編でも書いたのですが、彼女は「痛がり」なんです。

【痛い】という閾値が結構低い(悪いって言ってるのではない)ので、今、彼女が痛がっているのはどれぐらいなのかを想像したら、不安になりました。

「どこまで」

「いつまで」

「どのぐらい」

という時間的な尺度で見たときに、彼女が解放されるまでの時間は残り何時間で、何分間の我慢をすれば逃れることが出来るのだろう、だなんて、そんなことばかり考えてました。

昨日、病院へ来てから、14:00を迎え、ずっと痛がってる彼女と痛がり方をずっと見ているボクの中で、なんだか落ち着いた時間が出来ました。

もちろん、何にも終わっていないし、まだまだなんですけど、プツッ切れたのか…

痛がる彼女と2ショットで写真を撮り始めましたw

結構な笑顔なんですよ。これが。

あ、ボクだけですけど。


3度目の促進剤投与だよ

そんな良く分からないテンションのボクをよそ目に促進剤の投与が繰り返されており、既に2度投与が終わり、これ以上引き延ばしたく無いということで3度目の促進剤投与

確かに出てこようとするんだけど、出てこない。

出したいけど、出せない。

こんな状態が16:30に終止符を打つことになりました。

担当の医師から

医師
旦那さん
ボク
はい…。
医師
奥さんのね、お腹を切って赤ちゃんを出したいと思います。というのはね、促進剤を打って確かに出てきそうなんだけど、強くなると赤ちゃんの心音が止まっちゃうんだね。
だから、自分で出したいって言ってたけど、開いて出そうと思います。
彼女、ずっと頑張ってきたから、身体的にもこれ以上は…と思うの。
ボク
…わかりました。お願いします。いいよね?
奥さん
いぃぃぃぃたあああああぁぁぁぁぁいいぃぃぃぃぃぃぃ

と、説明をされ、リスクの説明とともに承諾書にサイン。

帝王切開の準備が始まり、彼女のお母さんは退室。ボクは残っていいということでした。

ボク自身、スポーツのトレーナーとして活動してきたからなのか、生来的な好奇心なのか、手術に立ちあえる機会を与えられたことに興奮しておりました。

ただ、それは後悔することになるのですが…


ついに息子が出てきたよ!

手術の最中、ボクは奥さんの顔のすぐそばにいました。

鎮痛剤を投与され続けている奥さんは先ほどとは打って変わり、落ち着いている表情を浮かべています。痛みから解放された安堵感なのか、穏やかな表情を浮かべていました。

彼女を挟んで奥には鎮痛剤の投与量を調節する麻酔科医的な役割の方がおり、その方とボクとで奥さんへ話しかけている状態でございました。

ずっと痛がっている彼女のそばにいたもんだから、ボクも気が抜けてしまい、今までが嘘の様に、本当に穏やかな表情を浮かべている彼女にホッと一息。

けど、ずっと震えてる

しかし、手術は進行中であり、目の前では彼女のお腹が切られ、さらに奥の子宮も見えてきて、そこからトンでもない長さのへその緒が出てきました。

その長さ85cmということだったので、どんだけ巻き付いてたんだよ!!

それが邪魔して出て来れなかったって話もしていただき、「長いなぁ…」なんて話を奥さんへすると「ははは。」なんて返ってきました。

へその緒とともに彼が出てきた!

うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!

赤い

血だらけ

紫色のカラダ!!

案外、低い声!!!

想像していた赤ん坊の高い声での「んぎゃぁ!」なんて声ではなく「んんあぁ!」としゃがれ声

たくましく感じたもんですよ。えぇ。

そんな赤紫な彼を見て奥様は「かわいい」と一声。

大変だったもんな。

よかったな。

どっちも無事でよかったな。

本当の安堵感に包まれる手術室。

いやぁ、大変だったけどよかったなぁ。率直な感想でした。

そこから、奥さんのお腹を閉じ、血だらけの赤ちゃんを水で洗い、正式なご対面。

感動しましたよ。そら、もう。

痛みからの解放された彼女の安堵と赤ちゃんに会えた気持ちがあふれて涙流れてましたよ。

いいよ、泣け泣け。そんだけつらい思いしたもんね。ありがとね。

それからボクは待ち合いで待ちながら、今までの時間を振り返っておりました。

「長かったなぁ…けど、よかった」しみーじみと。


病室へ帰って来た

病室へ返ってきた彼女へ心底の「ありがとう」「おつかれさま」を伝えました。

他に言葉が見当たらなかったんですけど…

「よかったねぇ」なんて話をしながら、これから3人になるね、とか大変になるかな、とかたわいない話をして、これまでのながい時間を、今度は2人で振り返りました。

基本的に鎮痛剤まみれの彼女は動けない状態でありましたが、頻繁に看護師さんがチェックに来ておりましたので「実家に報告してくるね」と言い、自分の実家へ電話をかけることに。

「無事に生まれたよー」「とりあえず大丈夫」「そうそう」

なんて簡単な言葉を交わし、もう何件か電話をかけ、終わったので彼女が寝ている病室へ戻っていると、何だか病室へ病院のスタッフがひっきりなしに出たり入ったり…

1、2名ではなく、⒋、5名

「何だろう、生まれそうな人がいるのかな…」なんて思いながら病室へ入ると、奥さんが寝ているベッドの周辺に人が集まってる…

…え?


血が止まらないよ!!

ボクが彼女の寝ているベッドに近づくと、そこにいたのはさっきまでの平穏な顔を浮かべる余裕のない空間が作られていました

ベッドが血だらけに…

全く想像もしていなかった状況に、本当に意味が分からなかったので、ただただ呆然と立ち尽くしていました。

しかし、狭い集団病室の中でボクの居場所はむしろ処置の邪魔になるのだと思い、遠目から、その処置を見守るしかありません。

とにかく処置に一生懸命になっているスタッフの方々はボクに説明をしてくれません。

血圧を測ると低血圧の彼女の血圧が更に低くなっている。

おまけに血が出ていることから推察し、ここでようやく「危ない」状態なんだと理解で来ました。

すると担当医から

医師
旦那さん、ちょっとよろしいですか?
ボク
どういう状態なんですか?
医師
彼女がずっと頑張ってたじゃないですか?
術中の出血が2.0Lで、術語に確認できただけで0.5Lで、合計すると2.5Lの血液が対外に出てしまいました。
ボク
それって…
医師
今も子宮が縮まっていないので、止まってません。旦那さんだったら既に失神しててもおかしく無い状態です。
ボク
はい。
医師
それで、今から子宮を収縮させる処置をしながら、輸血をしたいと思います。ですので、承諾書を…

ざっとこんな感じの説明を受け、状況に事実が確認できました。

0.56L/kg という血液量が人のカラダにはあるのですが、簡単に計算しても「致死量」っちゃ致死量なんですね。イヤになる。

そら、そんだけ血が出てれば手術中に震えてることも納得できる。

けど、この病院まで基幹病院から輸送してくるだけでも1時間、そこから血液のパッチテストをするのに30分以上…

つまり、今から90分以上、彼女へ血液が足されることはない訳で、そこまで彼女がきちんと耐えてくれれば…

という前提付き。

イヤになる。

けど、言っても仕方ないし、ボクに出来ることは何にもありませんが、出来ることだけやろうと。

そばに行って、話しかけて、これからの生活について話すこと。

けど、最中に耐えきれずにトイレで泣きました。

泣いちゃ行けないんだけど、怖くて。

トイレの鏡に情けない自分がいる。

「よし。」ってトイレでる。

戻ると、相変わらず付きっきりで血圧を計られている。

一番低くて上が50下が30…

けどね、スゴいなって思ったのは彼女、気を失わない

顔も白くなってきたし、唇も青くなってる。

けど、時には笑顔を作ってくれる。

本人はたぶん、今の自分の状況が理解できてない。

実感がない中、なんとか無事を祈る自分だけど、何も出来ない自分がいて、もどかしいけど、仕方ない。

時間がドンドン過ぎていく中で、血圧が上がった!!


復活だよー!!

わーーーーーー!!!

よかたーーーーー!!!

計る度に血圧が戻っていく彼女の顔には、明るさが戻ってきて、唇にも血液が回っている様子。

病院内スタッフもその様子に安堵しているし、その様子を見て、彼女をみると、やっぱり何が起こっているのかを理解していないので、サッパリな感じ。

いずれにせよ、我が嫁、復活でぇぇえぇえぇす!!!

とはいえ、まだ安定している訳ではないから不安。またこれから寝ちゃいけない状態です。

となりで異常がないかどうかのチェックをしなければなりません。

けど、いい。

彼女が無事だから。やれる。

だいじょぶ。


現在…

はてさて、そんなこんなでそろそろ1年を迎えるにあたり、無事であればあったで感謝はしつつも、日々の生活の中でお互いにイラつくこともあれば、ぶつかることもあります。

ただ、忘れられないとは思いながらも一時の感情で忘れちゃうんですよね。

だから、1年を迎えると当然思い出しますが、その前に長々と思い出しながら、ちょっとでも人の目に触れることを前提に緊張感を持ちながら書きたいという気持ちを両立させるために、この場を利用しました。

長くなりましたが、以上です。

ありがとうございます。

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