名前のない喫茶店~まえおき~前

1 / 3 ページ

後編: 名前のない喫茶店~まえおき~後

※これは、私が最近感じていることを、少し物語風に書いてみたものです。書くのに時間がかかり、とても続かないかもしれませんし、小説の才など元よりありません。ただ、この方がより伝わるかもしれないと思ってやってみた次第です。楽しんでいただけたら、幸いです。


初めて訪れた商店街は、小さな丘を中心にアーケードになっていた。


アーケードの隙間から覗く日差しは柔らかかった。東川はもう長いこと太陽を見た気がしなかった。季節はやはり春になっていた。



商店街には、スーパーや薬局、定食屋にクリーニングなど小さいながら店は揃っており、日常生活はここを利用すれば問題ないようだった。平日の昼間の商店街は、買い物かごを持った主婦や、ランドセルをしょって走る子供たちや、散歩をしている老夫婦などで、比較的にぎわっていた。

彼は、久しぶりに自分の心が少し穏やかになるのを感じていた。親密さはまだないが、異邦人の真っ白な軽やかさがそこにはあった。


商店街の半ばから、丘の中心に向かって道が延びており、その入り口には小さな石作りの鳥居が建っていた。東川は、鳥居をくぐって緩やかな上り坂の道をゆっくりと歩いた。商店街のにぎわいが、後ろにすっと消え、道の明るさが増した。丘は大した樹木は育っておらず、膝下ぐらいまでの草原が広がっていた。



石の階段を上っていくと、丘の中心らしいところに、小さな神社があった。

そこから少し離れたところに、煉瓦作りの建物が見える。煉瓦作りといっても所々トタンや土壁のようなところもあり、神社のそばにあるには、少し違和感のある建物だった。よく見ると、入り口の少し高いところに、コーヒーカップから湯気が出ているデザインが彫られただけの木の看板が吊されていた。

どうも喫茶店のようだったが、入り口の表示もメニューも店の名前も書かれていない。喫茶店というよりは、寂れた窯場のような感じだ。店先の雰囲気にあまりフレンドリーさはなく、どちらかといえば無骨でさっぱりした印象がある。


彼はさっきからひどくお腹が空いていたが、そこに入るべきか少し迷った。。朝から何も食べておらず、商店街に来たのも、どこかで食事をするためだった。丘を下る前に何か少しでも食べておきたかった。それに、その建物の静かな雰囲気は、彼の心のどこかをとらえていた。入り口に立って何分か迷ったあと、彼はゆっくりとドアを開けた。


「こんにちは」



少し待ったが、返事はなかった。中はやはり煉瓦作りを基調としたレイアウトで、粗雑ではあったが喫茶店の形は成しており、どこかからコーヒーの香ばしい匂いがしていた。やはりここは喫茶店のようだった。



店には誰もいないようだった。少し離れたところに大きい窓が並んでおり、そこから真っ青な春の空と町並みが見渡せた。まだ開店前かもしれないと彼は思った。



「お待たせしました、何にしましょう?」



気がつくと、右手の奥から男がゆっくりと近づいてきていた。季節的に少し早い薄手のからし色の七分袖のTシャツに、コットンのベージュのチノパン。緑色のあせたエプロンを腰に巻いている。



「あ・・メニューもらっていいですか」




「メニュー?・・ああ、お客さん、ここ始めて来たの?」


みんなの読んで良かった!