【私の思い出たち】〔第一話〕
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【私の思い出たち】〔第二話〕
わすれないよ
私が勤務を終え,疲れた体を引きずりながら夕食の材料を買いに生協に行った時のこと。
私が食材を吟味していると,隣りから私の顔をじ~っと見つめている女性の姿がありました。なんだろうと思い,私も見つめ返したら,その女性,おずおずと
「あの~,違っていたらごめんなさい,小学校の先生ですか?」
と言われるのです。私は“来たな”と思いました。こういう場合,まず間違いなく,昔の教え子との再会の場面になるのです。
私は
「はい,そうですが」
と言いながら,彼女が会社の制服で来ていて,ネームプレートを首から下げているのを見つけました。
「苗字には見覚えがないが,この名前の子は,今まで1人しか担任したことがない,そうだ,あの子だ」
…心の中でそう考えた次の瞬間,予想通りの展開になったのでした。
意外だったのは彼女がその後に言った言葉でした。
「覚えていらっしゃらないと思いますが…」
あのね,担任した子を忘れる教師なんかいないですよ。しかもあなたは少年団で指導したし,『ぞうれっしゃ』仲間じゃないか,と,心の中で思いました。私が彼女を結婚前の旧姓でよび,
「アルトホルン吹いてたよね,一緒に全道大会にも行ったし」
と言うと,彼女は目を大きく開いて,とてもうれしそうに頷いたのでした。
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