雑誌を作っていたころ(53)

前話: 雑誌を作っていたころ(52)
次話: 雑誌を作っていたころ(54)

コールセンターの世界


悠々社にはいろいろな「社友」がいたが、コールセンター界の大御所・多田正行氏もその1人だった。そもそも「開業マガジン」第1号の座談会に出席してもらった縁で知り合ったのだが、やがて多田さんは悠々社に居着いてしまった。それまで居候をしていたコールセンターの会社に飽きたようで、ちょうど悠々社を辞めた高田さんという女性の席が空いていたので、そこを使ってもらった。


多田さんには「開業マガジン」で連載を執筆してもらうほか、いろいろなアイデアを出してもらった。たとえば国道16号線をぐるっと一回りして、沿道のいろいろな商売を観察する企画とか。これはぼくと編集部の中村くんと多田さんの3人で、富津から観音崎に向かって少しずつ取材する長丁場の企画になった。といっても半分遊びみたいなもので、「今日は疲れたから、あそこのスーパー銭湯に入って解散にしよう」といった具合だ。


あるとき多田さんから提案があった。「自分自身のマネジメントが面倒くさいので、全部悠々社でやってもらえないか」というのだ。多田さんの仕事を管理して、外部からの入金をすべて悠々社で受け、多田さんには毎月定額を支払うという方式だ。面白そうなので引き受けた。そのころの多田さんは売れっ子で、日本ユニシスや東京電力、日本生命など、いろいろなところから講演やレポート作成の依頼が来ていた。


そうなると、多田さんの専門であるコールセンターについても勉強しなくてはならない。「何かいい教科書はないですか?」と聞いたら、「ないから、ボクが書く」との返事。その話がふくらんで、悠々社から刊行した『コールセンター・マネジメント入門』に結実した。


多田さんは関西の出身だったが、大学はUCLA。まだ日本でMBAが有名でないころにMBAをとって帰国した。自宅の書斎は9割が英語の本。英語の本と日本語の本は読むスピードが同じだと言っていた。「この人はすごい」と心底思ったので、必死に食らいついたが、多田さんの知っていることの1万分の1も理解できたかどうか。


ぼくは多田さんの鞄持ちとして、アメリカに2回、日本各地に数え切れないほど出張した。とても残念なことに2回のアメリカ旅行の写真をほとんどミスで失ってしまったが、残っていればいろいろと役に立ったと思われる。


コールセンターの面白いところは、コンピュータと電気通信の両方の知識が必要だということ。そしてマーケティングのこともわかっていなければならない。それらの知識を高いレベルでバランスしている人は当時ほとんどいなくて、いろいろな人が多田さんに教えを請うためにやってきた。


あるとき、多田さんと一緒にソニーの藤沢工場に行った。そこにVAIO(まだソニーのブランドだった)のコールセンターがあったのだ。そのコールセンターは大きくて、3社から派遣されたエージェントがブースに詰めていた。すでにソニーの大企業病は始まっていて、コールセンターのエージェントは社内に問い合わせしたときの対応が冷たいと怒っていた。


多田さんは口を開けば「日本のコールセンターはアメリカに10年遅れている」と言っていた。ぼくは「へえ、そんなものかな」と思っていたが、多田さんに連れられて日本国内のコールセンターをいくつも見学したあとでアメリカに行き、ユニシスのコールセンターを見てそれが本当だと悟った。


日本のセンターは若い女性ばかりだったが、テキサス州オースチンにあったユニシスのセンターには、老若男女、年齢も性別も人種もばらばらの人たちが詰めていた。「そのお客様にもっともふさわしいエージェントを対応させるため」だそうだ。頭から湯気を立てて電話をしてきた中年男性が、自分の母親くらいのエージェントにやさしく応対され、最後は「サンキュー、ママ」と電話を切ったという話を聞かされた。


日本のセンターでは「まもなくテレビCM流れますっ!」とスーパーバイザーが金切り声を上げたりしている光景をよく見たが、アメリカのセンターでは太った黒人のスーパーバイザーが、ヘッドセットのコードをくるくる回しながらにこやかに巡回している。「仕事は楽しむものだ。俺たちはプロなんだから」と彼は口ぐせのように言っていた。何が違うのだろうと、ずいぶん考えた。


そのうち、「コールセンターの雑誌が作れないかな」と思うようになった。多田さんもそのつもりだったようだが、いかんせんスタッフを集めるのが大変だ。雑誌作りのスキルがある人たちにはコールセンターの知識がなく、コールセンターの知識がある人たちは雑誌作りのノウハウを知らなかった。何度も企画を立ち上げては頓挫することの繰り返しだった。なんとかモノにしていたら、今ごろは編集発行人として左うちわだったかもしれない。


2000年2月1日発行の『コールセンター・マネジメント入門』の案内文が残っていたので、記録のためにここに掲載しておく。

- - - - - - -

【内容】わが国ではまだまだ認知度の低いコールセンターという組織。しかし、いまや、アメリカのビジネス界では従来の営業部門よりもはるかに注目され、企業の中核をなす存在であることは識者にとっては常識となっている。

従来、日本のビジネスの発想は、商品やサービスを「与える」という形であり、「ケアする」という発想が乏しい。確かに「お客様サービスセンター」などの名称で、とりあえずサポートする体制を持っている企業は多いが、その大半は受け身であり、実質は「穏便にクレームを処理するところ」といった消極的なものである。

だが、こうした対応は、大事な顧客と企業の間に拒絶感のようなものを築いてしまうと同時に、ビジネスを伸ばすための有益な情報を自分から断ち切っていることにもなる。

コールセンターは、千差万別の事情を抱える顧客の情報を分析、プロファイルするとともに、最新の通信機器を利用することで素早くこれに対応し、購買客を「お得意さま」に変えていくことを目的とするプロフェッショナル集団である。だからこそ、「電話応対の仕事は女の仕事だ」といった安易な発想は通用しない。スーパーバイザーやエージェントと呼ばれる人たちには、積極的で、臨機応変で、インテリジェンスあふれる新しいタイプのエリートが要求される。

21世紀はコールセンターの時代である。その運営を実現することは企業にとって急務であり、義務である。しかし、これまでの認識を改めて、正常にコールセンターをマネジメントしようとするなら、その先進国であるアメリカの事情や、通信機器のサイエンティフィックな最新情報に通じる必要がある。

本書はコンサルティングに確かな経験と実績を持つ多田正行氏(コールセンター・マネジメント研究所所長)が、日本のコールセンター研究の第一人者として、その運営上の問題点と対処法をわかりやすく講義する、わが国初といってもいい革新的な入門書である。

【構成】本書の内容は「予備校」から始まり、入試、講義、ゼミを経て卒業へといたる、ステップアップの形式を踏んでいる。

○第1章 予備校編「コールセンターの運営は難しい」 1999年3月に行われた著者による講演の速記録

○第2章 入試問題編 厳選された2つの問題に答えることで、コールセンターについての理解度が自分で診断できる

○第3章 講義編「コールセンター・マネジメントQ&A21講」

Q1 そもそもコールセンターとは何か?

Q2 どうしてコールセンターが必要なのか?

Q3 コールセンターはこれからどうなるのか?

Q4 コールセンターのマネジメントの勘所は?

Q5 コールセンター・マネジャーに求められる職能要件とは?

Q6 エージェントにはどんな人を雇えばいいか?

Q7 スーパーバイザーは何をする人か?

Q8 QA(品質管理)とはどんなことをするのか?

Q9 ヘルプデスクでのエスカレーションとは何か?

Q10 テレフォン・アカウント・マネジメントというのは何か?

Q11 インターネットとコールセンターはどう関係するか?

Q12 インターネットの時代にコールセンターはもう時代遅れではないのか?

Q13 テレマーケティングとコールセンターに違いはあるか?

Q14 インバウンドとアウトバウンドをどう使い分ければいいのか?

Q15 アウトバウンドとプロアクティブはどう違うか?

Q16 ナンバー・ディスプレー・サービスは使えるか?

Q17 IVRはどう使えばいいのか?

Q18 CTIは本当にコールセンターに必要か?

Q19 コールセンターとCRMの関係は?

Q20 コールセンターの立地をどう評価するか?

Q21 インハウスとアウトソーシングの違い、賢いエージェンシーの選び方

○第4章 ゼミ編「コールセンターの将来像」 インターネット時代のコールセンターのあり方について

○第5章 卒業論文「コールセンターのこれから」 通信機器のさまざまな組み合わせによって、より複雑になっていくだろう、センターの未来を占う


「開業マガジン」に掲載した『コールセンター・マネジメント入門』の自社広告


サイトからのお知らせ

STORYS.JPはあなたの一歩を応援しています

生き方は少しずつ自由になってきましたが、未経験分野への挑戦(転職)はまだまだ難しいのが現状です。これを踏まえて、STORYS.JPは誰でも実務経験を得られるサービス『adoor』をリリースしました。 最初はエンジニア職を対象にしています。STORYS.JPは、どんな人でも人生の一歩を踏み出しやすい世の中を目指しています。

実務経験は買える「adoor」

続きのストーリーはこちら!

雑誌を作っていたころ(54)

著者の山崎 修さんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。