【第六話】『旅支度』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
それから、色んなものを揃えた。
少し前に富士山に登ったため、ザックやストック、ヘッドライト、雨具などは持っていた。
防寒着、携帯ガスコンロ、サーキュレーター、テーピング、食料…など、
自分なりに考えて、準備をした。
野宿もすると思って、彼女とキャンプするために買った、テントと寝袋も初めて使う時が来た。
自分の歩いた景色を、自分の歩いた軌跡を残すため、
写真を撮る三脚も買った。
もの凄い量になった…。
旅に必要なものは揃った。
しかし、旅に必要な心はまだ準備出来ていなかった。
「この旅で、僕は死ぬかもしれない…」
会っておかなければならない人がいる。
これで最後のケジメをつけよう。
最後のケジメ…
僕は、彼女のご両親に会いに行った。
彼女のご両親には、短い間だったが、お世話になったし、
最後の別れも言えていない。
ちゃんと自分の気持ちを話さなきゃダメだと思った。
正直言って、会うのは怖かったが、思い立ったら即行動!
何のアポも無しに、突然会いに行った。
ピンポーン
お義母さんが出た。
「まぁ、どうしたの?」
「お父さーん!」
その日は平日だったが、たまたまお義父さんも家にいた。
2人は、僕を家に入れてくれた。
そして、僕は自分の気持ちを伝えた。
こんな結果になってしまって、本当に申し訳ないということ。
心から感謝してるということ。
思っていたことを伝えた。
ご両親は、
「ひーくんは本当にいい子だから、本当に残念に思ってる。」
「でも、親としては、不安定な生活に娘を送り出す訳にはいかないんだ。」
ご両親の言うことは、ごもっともだ。
僕が親だったら、同じ決断をする。
彼女はお義父さんが大好きだった。
お義父さんは、僕の父親と違い、超アウトドア派で、
週末はバイクに乗り、仲間とツーリング、
キャンピングカーを借りて、家族と一緒にキャンプの旅をしたこともあった。
子どもが行きたいと言ったところに連れて行き、家族との時間を大切にしていた。
字も絵も上手だし、理論的で合理的、それでいてとても柔らかい雰囲気の人だった。
僕は生まれてこのかた、キャンプもしたこと無いし、
アウトドアの経験なんてBBQくらいなものだった。
父親はいつも仕事が忙しく、休みの日は接待のゴルフか、家で寝ていた。
たまにキャッチボールやゴルフの打ちっぱなしに連れて行ってもらったが、
キャンプなど、アウトドアをしたことは無かった。
僕は結婚したら、お義父さんにアウトドアのイロハを教えてもらいたかった。
キレイな場所に行って、お義父さんが絵を描いている間、僕は写真を撮って、
バイクの免許も取って、一緒にツーリングに行きたかった。
しかしそれが現実になることはもう無い。
「今日はケジメをつけに来たんです。」
「僕も前に進みます。」
ご両親が一番聞きたかったのは、そんな言葉じゃなくて、
「ちゃんと仕事をします!」
だったと思う。
でも、こんな状態では仕事なんて到底出来ない。
「僕は新しい道を進みます。」
「今まで本当にお世話になりました。」
「本当にありがとうございました。」
そう言って、最後のお別れをした。
ケジメはついた。
あとは、前に進むだけだ。
僕が今、やらなければならないのは、
仕事をすることでも、休むことでもない。
自分自身と真剣に向き合い、弱い自分と闘うことだ。
準備は整った。
さぁ、出発しよう!
自分の限界を探しに。
弱い自分に勝つために。
つづく…
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