【襟裳の森の物語】第十二夜〔強烈な出会い〜高学年合唱〕

前話: 【襟裳の森の物語】第十一夜

 私は『襟裳の森の物語』序章を歌ったのだ。しかも,前後を逆にして。その効果は絶大だった。歌い終わった私が何も説明しないうちから,子どもたちは私に殺到し,

「先生,なんという名前の歌ですか?」

「楽譜は?」

「カッコイイです!」

などなどと口々に叫んでいた。


 私は子どもたちを座らせて,合唱組曲についての説明を始めた。子どもたちは息を呑み,私を食い入るように見つめていた。私がひと通り説明を終わらせた時,体育館は感動で包まれていた。

 子どもたちは今までの学習で,“襟裳方式”に感嘆し,それを進めた人たちを尊敬していた。私から意図的に説明を外されていた〔合唱組曲がある〕という事実を知らされた時,子どもたちの思いはひとつになった。《自分たちの感動を他の人に伝えたい》である。そのためには学年の枠を超え,皆が協力しあって合唱団を結成する必要があるということも,子どもたちは瞬時に理解したのだ。

「これは画期的な取組です。学芸会で,2つの学年が協力して発表するのです。これはたくさんの職種の人達が協力して成し遂げた,“襟裳方式”のようですね。この,すごいこと,みんなでやってみませんか?」

という私の呼びかけに,子どもたちは諸手を挙げて賛成した。


 ここで私は,子どもたちにもう一つの情報を与えた。

「みなさん,さっきのピアノ伴奏,スゴいと思いませんでしたか?」

子どもたちは,そういえばそうだというように顔を見合わせている。

「みんなの先生はね,実は大学生時代に関東ブロックのコンペティションで1位になった,有名なピアニストなんです」

 私の紹介に恥ずかしそうに立ち上がった彼女を,子どもたちの大きな拍手が包んだ。

「先生は偉そうぶる人ではないから,今まで誰も知らなかったでしょ?」

 私の話に,他の先生方も顔を見合わせていた。そう,教職員の中でも,この情報を知っていたのは私だけだったのだ。


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