原因不明の肝疾患で肝移植してから約10年, 闘いは今も続く その⑪ MRSA腸炎
1年後、ダブルバルーンERCP
明けて2012年。春先に2006年と同じような腸の不調はありましたが、全体的には好調を維持していました。
あれ程繰り返していた胆管炎も、ダブルバルーンERCPでの処置が効果的だったのか、発症していません。
そしてこのまま1年経過し、再度ダブルバルーンERCPをすることになりました。これは元々決まっていたことで、1年経過時点での経過観察と、ステントの交換のためです。
ステントは網目状の筒で、金属でできています。経過とともに徐々に詰まってくるので、定期的な交換が必要です。ステントの詰まりは、台所などの排水溝の詰まりを想像してもらえば分かりやすいと思います。
前回同様入院しての検査・処置ですが、結果によってその後にすることが決まるため、入院期間は未定でした。最長で2週間程度とは言われていました。
今回も、多くのスタッフに囲まれ意識の無い状態で検査。滞りなく終わり、原発性硬化性胆管炎(PSC)再発の可能性もないだろうという結果でした。
ステントはこの1年のうちに留置箇所から移動して抜けてしまっていたそうです。患部の狭窄も無かったことから再度のステント留置はせず、2015年時点でもステントは使っていません。
状態も良く、検査後にも特に何も起こらなかったため、早期の退院となりました。入院期間は1週間弱。後にも先にも予定より期間が短くなったのはこの1回だけです。
引き続き好調のまま、2013年を迎えました。
年明けすぐに胆管炎の発症がありましたが、治りは良く、短期の入院での治療で済みました。今回で入院17回目。もう入院が特別なことではなく当たり前のようになってきています。
潰瘍性大腸炎
PSCの合併症で代表的なものに《潰瘍性大腸炎(UC)》という炎症性腸疾患があります。主な症状は、粘血便や下痢です。
潰瘍性大腸炎の診断・治療の過程で、PSCが発見されることも多いとのことです。
私もひどくはないものの、時折下痢症状はあったため、以前から潰瘍性大腸炎診断のための検査を定期的にしています。大腸内視鏡を使って直接腸の様子を観察する検査です。年に1回ぐらいのペースでしています。
腸に太い内視鏡を入れて進めるため、身体への負担が大きく、初めてしたときは鎮静剤を大量に使い、検査後数時間は起き上がれないぐらいでした(今は内視鏡が小型化されるなど改善され、以前ほどの苦しさはなくなりました)。
現状、腸の炎症はあるものの、潰瘍性大腸炎の特徴的な所見はないとのことで、《非特異性腸炎》と診断を付け、特に治療はしていません。
(以前、UCの治療薬を使ったことがあるのですが、1日目から発熱やひどい下痢症状が出たため、すぐに中止しました)
ポリープ切除
こうした検査を長年続けているうちに、大腸にポリープが見つかったため、取ってしまおうという話になりました。
ポリープ切除は、大腸内視鏡検査と同時に、内視鏡から専用の切除器具を使って行います。通常、この検査は1日で済ませられるのですが、ポリープ切除をする場合は、出血や炎症による発熱が起こるかもしれないため、数日間の入院になります。
今回は久しぶりに緊急ではなく予定を立てての入院です。夏場だったので、お盆時期に重ねることにしました。
どの検査入院でも、入院 ⇒ 翌日検査 というパターンが多く今回もそうです。既に何度もしている検査に加えてポリープ切除があるだけなので、おおよその流れやかかる時間も分かっています。
検査は意識下でするため、内視鏡のモニターを自分で見ることもできます。なんとなくですが、腸がただれている様子なんかも見て分かります。
結果ですが、腸の炎症が強く、出血などの可能性が高く、ポリープ切除はしなかったということです。ポリープ自体はおそらく良性で、緊急性はないと判断したそうです。検査自体は中止ではなく、ポリープ切除以外は予定通りに行いました。
モニターを見ながらでもこれらの経過は分かりませんでした。
結果だけみると、入院の必要ない入院でした。
MRSA腸炎
この大腸内視鏡検査が切欠ではないのですが、ちょうどこの頃から下痢・粘血便が頻発し、発熱もするようになりました。
9月頭には高熱で動けなくなり、救急搬送 ⇒ 入院です。
高熱は抗生剤で数日で治まり、肝機能にも問題はなく、10日間程度で退院できました。
ただ、この退院時にも下痢・粘血便は続いており、退院後もさらに症状はひどくなる一方。下痢というよりはほとんど血が吹き出すような様子になっていました。そして10月頭にも同じように高熱で動けなくなってしまい、また入院です。
何らかの感染症を起こしていることは間違いないようで、今回は培養検査で原因をきっちり調べることになりました。
結果が出るまでは1週間程度かかるので、それまでの間は今まで使っていた抗生剤や栄養と水分補給の点滴をしていました。
結果、MRSAという細菌の感染が分かりました。MRSAは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌といい、多くの抗生物質に耐性を示すため使える抗菌薬は数種類に限られます。
また通常、感染があっても症状は出ないのですが、肝移植後で免疫抑制剤を使い免疫力を落としている状態では、日和見感染を起こすこともあります。今回はこのケースで、症状が腸炎として発生し、下痢・粘血便・発熱につながったということです。
数少ない使える抗菌薬での治療開始です。
抗菌薬服用を始めてからすぐに効果は出始め、下痢などの症状は徐々に治まってきました。既定の服用期間が終わった頃には発熱を含め、目立った症状は出なくなっていました。
念のため、MRSAに感染しているかどうかを再検査。並行して入院初日からの絶食を止めて食事も再開です。
MRSA感染がないことが確認でき、食事を再開しても症状再燃することがないか、慎重に様子をみて退院となりました。
すこし長めの3週間程の入院になりました。いままでの肝臓や胆管に起因する症状ではなく、腸が関係する合併症で、また違った苦しさがありました。
MRSA腸炎も、なんどでも
この後、MRSA腸炎は再発を繰り返し、2013年11月末から2週間, 翌年の3月にも3週間, 10月と12月にも短期ですが同じ症状で入院加療となりました。
その間、7月には感染症を伴わない腸炎もありました。
中でも最もひどかったのが、2014年3月の再発時です。
このときは、MRSA腸炎の症状だけでなく、肝機能にもかなりダメージがあり、腹水など肝不全に近い症状もありました。1週間近くはベッドから半身起き上がることもできないぐらい様々な症状で苦しんでいました。
腹水はお腹がパンパンになるぐらい溜まり(それでもいわゆる腹水症状に比べれば微々たるものです)、痛みが出たり呼吸も浅くしかできなかったりで、物理的に抜くことになりました。
お腹に針を刺して、そこから強制的に排出です。確か量は2リットルで止めたと記憶しています。そんなに大した量ではなかったのですが、これだけでも随分楽になります。
※腹水の中にも栄養分が含まれるため、無闇に抜くことはできません。
こんな状態でも抗菌薬は効果的で、日が経つにつれ、徐々に腸炎の症状は治まってきました。腸炎が山を越えると肝機能も落ち着き始めるようです。入院時の状態から考えると異例と思えるぐらいの短期間(2週間程度)で目立った症状はなくなりました。
あとは、いつもと同じように、食事を再開して問題なければ退院です。
都合、3週間程度の入院加療です。
MRSA腸炎の何が苦しいかといえば、延々と下痢・粘血便が続くこと。またそのときは感染症を起こしているため、発熱の程度を問わず、普通でないようなだるさを常に感じています。
この後もMRSA腸炎は続き、再発しなくなったのは、今年(2015年)に入ってからです。1年半の長期に渡り苦しめられました。
2015年、初詣の御神籤は大吉。病気 重くない癒る とも書かれていました。幸先良いスタートです。
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