Love the way you are★

著者: 高橋 ひとみ
第1章 出会い

「完璧になろうと思っていた。それが一番の間違いだった」

登場人物
1、四季
2、腹の出っ張った女
3、リン

昔、ばあちゃんが死ぬ前に見せてくれた、じいちゃんが戦争に持って行っていたカバンの中身。
それは、戦友との写真や絵葉書。勲章。そして日記だった。
達筆過ぎて読めない日記だったが、最後のページには、押し花がされていた。
色褪せてはいるが、どこかの国で咲いていた黄色い花やピンクの花。
じいちゃんは四季が産まれる前に死んでいたから会ったことはないが、戦争の最中でも花を美しいと思い押し花をしていたじいちゃん。
四季も、そんな人で在りたいと思った事を覚えている。

そして今、四季は29歳、販売員をしている。
もうすぐ6月になろうという涼しくて気持ちの良い夜8時。
四季はいつも通りビルの屋上にいる。
さっき仕事帰りに立ち寄った病院で医者にもらった何種類もの精神安定剤を時間通り、律儀に缶ビールで体に流し込んだ。
靴を脱ぎ、屋上のコンクリートの上をペタペタ歩きながら鼻歌を歌う。薄ら笑いを浮かべて。
10年以上にも及んで繰り返し開いては閉じて作った何十本とある左腕の古傷がうずく。

それを無視するようにして、より大きな鼻歌を歌い、コンクリートの上を動き回る。
6月手前で涼しい夜なのに汗をかくほど動き回る。
当たり前にくると思っている明日を乗り切るための今の四季にできるやり方なのだ。

汗だくになりコンクリートに大の字に横たわり、タバコに火をつけた。
後は帰って、シャワーを浴び、化粧水もつけずの30前のカサカサ肌を撫でながら、そのままクローゼットのダンボール箱に入り込み、夜をやり過ごすだけ。

そして、いつしか朝になり、笑顔で仕事に向かう。
完璧だ。
完璧に頭が狂っている。
空を飛ぶ勇気さえない四季が、生きるためにしていること。
誰にもわかるまい。
誰にも伝える必要もない。
図々しい。誰かにわかってもらいたいなんて。。

コンクリートが冷たくて気持ちが良い。
目を閉じ、ビルの下の騒音に耳を澄ましていた。
あんなに人混みは嫌いなのに、騒音は落ち着く。

数分がたっただろうか、その時屋上の入り口からガタッと音がした。
四季はゆっくり目を開けて空を見上げながら
「ちっ、客が来た」と思い入り口に視線を送った。
そこには、少しお腹が出っ張った女が立っていた。こちらを見ている。

四季は、わかったよと言わんばかりに、大袈裟に立ち上がりタバコをくわえたまま缶ビールとカバンを両手に持ち、入り口へ向かって歩き出した。

するとその女が言った
「サンダル、忘れてる」
四季は
「あ、」とだけ言い、サンダルを履きにコンクリートの上を引き返した。
足の裏をパンパンしてサンダルを履き、再び屋上の入り口に向かう。
その女の前くらいにきた所で、自分でも思いもよらない言葉が口から漏れた

「どうせ死ぬなら、その子産んでからにしたら?。。どうでしょう」

なんて。まぬけで無責任な言葉だ。
女は黙っている。
余計なことを言ったかなと思いながらも、四季は女の横を通り過ぎ、入り口を入り階段を下り始めた。

カンカンとサンダルの足音がビルに響く。そのとき

「ねえ!!バイトしない?」
急にその女が喋った。
「バイト?」
四季は聞き返した。

女の手には茶封筒が握られていた。

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