【第二回】少年Aがいた街。
「詳しく聞きたい!」をありがとうございます。
慣れてなくて、読みにくくてスイマセン。
今回はツールを使って、工夫して書いてみます。
* * *
その日は、突然やってきた。
なぜだか朝からやたらと、同じタイプのお客さんばかり来る日だった。
1.お弁当を買っていく
2.必ず領収証を頼む
3.忙しそう(何だかソワソワしている)
この、3つの共通点。
世間知らずのノホホン大学生だった私には、この共通点が何を意味するのか、さっぱり分からなかった。
とにかく、その似たようなお客の対応で目が回るほどに忙しく、バイト同士で話を交わすヒマさえなかった。
やっと訪れた客の切れ目に、一息ついた時。

私は寝坊して、今朝の朝刊を読んでいなかった。
テレビも見ていなかった。
思い返せば、静かな街には珍しく頭上でずっとヘリの音が響いていた。
近所のおばちゃんが眉をひそめて井戸端会議してたっけ。
いつもは空いてる道路沿いに、駐車車両がいっぱい。
なんか、あったの…?
バイトリーダーは、こいつ大丈夫か?みたいな目つきで、売り物の新聞の一面をバンッと開いて、私に見せた。
「頭部」「切断」「校門」
と、衝撃的なキーワードが続き、知らず知らずのうちに指先が震える。
そして、冒頭に書いてあった地名を二度見して、血の気が引いた。
まさにそのコンビニから、1.5キロ程先での出来事だった。
そして、校門に頭部が置かれた中学校は、私のかつての教え子・Rちゃんが胸を弾ませて進学した中学校だった。
「そんな…」
言葉が出なかった。
刈り込まれたニュータウン
そこから1週間程で、小さなニュータウンの様相は変わった。
テレビや新聞によると犯人は
「30代男性」
「白い乗用車(のちに黒に変わる)に乗っている」
「まだこのあたりに潜伏中?」
などという、どこにでもいそうな、それこそ石を投げれば当たるような人物らしい。
そんな頼りない犯人像の情報が、住民たちの表情を暗くし、井戸端会議のおばさんたちの眉間の皺を一層深く、険しくしていた。
犯人が隠れる死角がないようにと、徹底的に植え込みや公園の鬱蒼とした木々や雑草が業者によって刈り込まれたこともあって、不自然に見通しが良くなっていた。
丁寧さよりもスピードを重視して刈り込んだ植え込みは、街全体をみすぼらしく、みじめに見せた。
年齢で言うと40代半ばぐらいのこなれた感じになっていた、ロン毛のニュータウン氏が突然、バリカンで坊主頭にされたような感じ。
私は、そんな風に変わり果てた自分の住む街が、連日のようにテレビをにぎわすことが、なんだか複雑だった。
警察車両や他県ナンバーの車がメイン通りには常に停車しており、明らかに住民ではない人々が町には溢れかえっていた。
マスコミ関係者達は相変わらずコンビニで領収書を切りまくり、死角はどんどん刈られてなくなり、それでも捕まらない犯人に町の不安は募っていった。
犯人のこと
「もしかして、犯人、このへんの子なんちゃうか?」
夕暮れ、コンビニ、ラジオの音。
店長が売り物の新聞を整理しながら、そんな事を急につぶやいたから、ラジオに聴き入っていた私は思わず、聞き返した。


(疑われてんのかーい)
と、内心思ったけど、ふふふ。と笑うだけにした。
店長は独身のお猿に似た小男で、お世辞にもカッコイイとは言えない風貌。
仕事ぶりはモラトリアム大学生から見てもいかにもテキトー、勝手にバイト達にSRSを組まれても気が付かずにジュースを奢り続け、暇があれば売り物の競馬新聞を読み、コンビニに来る以外の時間に何をしてるか、とか、趣味は何かとか、実はよく知らない。
ていうか、ごめん店長、興味なかった。
私は、おそるおそる聞いてみた。


確かにそうかも・・・と私はその時、初めて思った。
「30代男性」、「白い乗用車」、「多数の目撃情報」という、街中が信じ込んでいた犯人像と、あまりにも非道な犯行のせいで、あの声明文を読んでも「子どもがやった」とは思えなかったのだ。
いや、思いたくなかったのだ。
今思うと、この店長の言う事はすごく鋭かった。
こんな会話は、街中のいたるところで繰り広げられていた。
「あの人が怪しい」「もしかしたら」「オレ、疑われてる?」「知り合いに聞いたんだけど」「ここだけの話」
みたいな、身勝手な推測や、疑念や、ウワサ話が飛び交った。
それからほどなくして、事件は誰もが知ることになる、驚愕の結末を迎える。
(続く)
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