29日目

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長女と孫、次女と私で伊東の別荘に。妻と韓国旅行の際に買い求めた屏風を背景に遺骨を安置しました。この屏風は亡き妻が大切にしていたものですが、1枚にヒビが入ってしまったため、いつか修理をしたいと病身の中、次女と大切に梱包してしまってあったものです。彼女が思っているほどの商品価値はないので、祭壇の背景として使うよう促しましたが、次女は妻との約束だといってかたくなに拒否しています。でも最後には折れて使用を認めました。商品価値は無くても私と妻にとってはかけがえのない思い出の品なのです。妻は、この屏風をつければ、この家が少しでも高く売れるとけなげに考えていたようです。

生前妻と懇意にしていたご近所のTさんが庭に咲いていた大きなダリヤを手折ってきました。夕方には宇佐美香会と称して葬儀の際に花束を送ってくれた3人組が来てくれました。どなたも私は面識がありませんでした。彼女はどこにいてもすぐに友達ができる特技を持っていた女性でした。

妻の医療費の足しにと売りに出していた別荘もとうとう売れずに終わってしまいました。いまさら売ってもし方がないので、妻の縁の人々に自由に使っていただこうと「陽香庵」と命名しました。過日、静岡の親友が贈ってくれた和歌「灼熱の太陽のごとく輝きて貴方(きみ)みまかりぬ香りも高く」から名前を付けさせてもらったものです。

晩年は宇佐美の地でのんびり暮らそうとの約束も果たせなかったのが残念です。夕方、伊東市内の花藤で夕食、ここは妻が好きだった小さな日本料理店です。オーナー板前が無口で料理が早く、もちろん味が良いので、伊東に来ると必ず寄る店の一つです。

翌朝は市場の前の定食屋に。孫がここのアジフライが日本で一番うまいといいます。妻が好きだった1品でもあります。思い出の店、思い出の湯に妻を偲んで4人で行きました。残念ながら、この店はオーナーが老齢で亡くなったため、現存していません。

翌日、仕事の都合で遅れてきた長女の旦那のM君が合流。今日は妻の故郷の静岡県磐田に行くので、部屋の掃除と祭壇のかたづけ。私と孫は居ても邪魔になるからと、近くにあるサイクルセンターのプールへ行きました。掃除を終えた長女夫婦と次女が迎えに来てそのまま静岡へ。

老人ホームに入居中の妻の母を連れ出し、近くの焼肉屋に入りました。痴呆症が進んだ83歳の母は、メンバーの中に亡き妻の姿が無いのが分かりません。幼い孫がしゃべってしまうかと危惧していましたが彼はそのことにはひとことも触れませんでした。長女夫婦が事前に言い聞かせていたのかと後で聞くと、そんなことはない、自分達もはらはらしていたとのこと。今年になって娘二人の死に遭遇してしまった義母。今更、知ってもしかたがありません。むしろ痴呆でよかったのかも。妻との思い出深い観山寺温泉に1泊。遺骨を床の間に安置し、部屋からみんなで花火を眺めました。

翌日、田舎の義姉の家に行く。妻がなくなる10日前に死去した義兄に焼香。2年半意識不明のまま逝ってしまったのです。帰り道、妻の生まれた実家に寄りました。今は住む者もなく、広い庭が夏草に覆われ家も荒れ果てていました。妻の遺骨を抱きながら、実家の前にしばし、たたずむ。妻にとっても私にとっても思い出深いところです。


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