200万円分のロレックスを購入された俺は、詐欺師とコミュニケーションをとりづらくなってしまった。
だって、1時間前は普通だったのに、突然200万円なくなったんだからね。
そりゃあ、寡黙にもなるよ。
そりゃあ、笑顔もひきつるよ。
詐欺師のカバンにロレックス。
俺のカードはすっからかん。
まあ、むかつくよね。
ところが、最高に頭に来る瞬間、というか「こいつ何者??」という瞬間が来るのである。
詐欺師は俺にこう言った。
200万円のロレックスは240万円で売れるから、40万円得する。(それがたぶん、そいつの仕事)
カード借りた報酬として10万円あげる。(いらんから、金返してくれ。)
200万円を1回20万円程度に分割払いにしてもらって欲しい。(おいおい、一発で払えないのか?)
だから、クレジット会社に分割してもらうように頼んで欲しい。(ああ、面倒)
とにかく俺は金を返して欲しかった。
ロレックスなんか全く興味ないし。
いよいよ台湾を出国する。
マイナス200万円の俺。
すると、詐欺師がこう言った。
「ここからが大事なんだよ。このまま出国する人がいるけど、出国のときに手続きをすれば税金分が返ってくるんだ。」
どうやら10万円以上の現金が戻ってくるらしい。
俺は頭の中で考えた。
10万円以上ということは、今のダメージが200万円だけど、とりあえず180万円台になる。
さらに現金が手に入るのは精神的にうれしい。
そもそもこいつはロレックスが欲しかったわけなのだから、その金は当然俺に返ってくるのが筋だろう。
ロレックスの差額の40万円を得ることがこいつの目的だったのだから…
そして空港で現金が戻って来た。
「ほらね。戻っただろう。」
「そうですね。」って俺はここで手を出した。
ところがこいつは何事もなかったかのように、自分の財布にしまいやがった。
俺のお金を。
カッチーン!
じゃないか?
意味分からなくないか?
ロレックスが欲しいから、俺のカードを使ったのに、関係ない税金をこいつが着服するのはどう考えてもおかしくないか?
今までのところは全部納得したとしても、そこだけは納得できない。
俺のモードはもう変わっていた。
こいつから金を回収しなければ…
日本についてから、カード会社に電話した。
「すみません。ロレックスの引き落としを分割払いにしてください。」
「はい。審査がありますので、お待ちください。」
なんじゃそれは?
俺は、カードの分割とかやったことないので、そういう小さいことにもイライラだった。
「はい。分割承りました。分割手数料は17万円です。」
なんだと?
分割したら10万円以上の手数料がつくの?
おいおい。
これ、回収できなかったら、全部俺が払うんか?????
詐欺師が着服した税金もこの手数料も俺か??
ふざけんなよ。
さらに俺のカードの1枚はパンクしている。
「すみません。上限をあと100万円あげてもらえませんか?」
カードが使えないのは、ちょっと困るので上限を100万円アップしてもらった。
くっそー。
全部あの野郎のせいだ。
最初の支払日がきた。
俺のカードから、ドーンと金額が引き落とされた。
その明細を詐欺師にLINEで送った。
すると詐欺師から「わかりました。」と来て、入金された。
しかし…
毎回毎回、これを詐欺師に送るわけ?
マジで勘弁。
こんなのを全部で10回もやったら、ガチで大変すぎる。
2回目の支払いが来た。
「2回目の支払いがありました。申し訳ございませんが、入金くださるとありがたいです。」
「わかりました。」
ところが…数日して事務から連絡があった。
「詐欺師からの入金がありません。」
「えっ?」
焦った。
「○○様、まだ入金がありません。手違いだと思うのですが、入金くださるようにお願い致します。」
「わかりました。」
そして、入金があった。
こわっ。
恐いわ。
1回22万円くらいの引き落としだったと思うのだが、こんなのドキドキ過ぎる。
その月に22万円も自腹切らされたらさすがにたまらない。
毎月パソコン買えるし、貯めたらロレックスが買えてしまうじゃん(笑)。
そして、1つのメールが来た。
知らない人からだったのだが、「詐欺師にお金を貸しているのは、実はあなただけではありません。詐欺師は実は時計詐欺師、カード詐欺師なのです。彼の周りの人は全て彼にお金を貸しています。今後の行動を慎重にされた方がいいと思います。」と書いてあった。
マジで?
案の定、三回目の振込も滞る。
やべえなあ。
絶対に回収しないといけない。
何度も何度も催促メールを送って、「わかりました。」以外の返信がやっときた。
「直接渡します。」
おお、それはいいじゃん。
直接くれるんなら。
その間に、詐欺師の周りの人達から、詐欺師の情報が漏れ始める。
暴力団関係者…
詐欺で逃げ回っている…
他にも騙されている人がいっぱいいる…
とにかく、全額回収だ。
それが無理でも今月分だけは回収しないといけない。
そして約束の日、詐欺師が現れた。
おっ、小さいカバンを持ってる。
あれに俺のお金が入ってるわけね。
そして、2人で喫茶店に行った。
すると寝ぼけたことを言い始める。
「伊東に別荘があるんだけど、その別荘を君に格安で売ったげるから。1千万円でいいよ。」
その別荘があったら、どれだけお金が入ってくるかを延々と説明してくる。
いらんし。
俺。
しかも、伊東ってどこか知らんし。
いらないというと、「アメックスのカード枠がまだ残ってたよね?利子つけて返すから、あのカード枠を使わしてもらっていい?」と言ってくる。
「アメックスはあの日以来解約しました。(当然解約していない)」
とにかく、俺はこいつに金を渡してる場合じゃない。
金を返してもらわないといけないんだから。
俺のもう1枚のカードがパンクしたままと思ってるから、アメックスのカード枠をギリギリまで使いたいようだ。
お前、他人のカードをパンクさせといてよく言うね。こいつ。
話も長くなるし、用事はただひとつ。
金を返してもらうことだ。
「…まあ、関係ない話は置いといて、とりあえずお金を返してもらえますか?」
上手く言わないと、へそを曲げて「やだ。」とか言われたらアウトだからね。
すると、今はないから、銀行に行こうと言う。
なに?
現金持って来たんじゃないの?
「じゃあ、一緒に銀行に行きましょう。」
そうしたら、山口県にない銀行名を言って、福岡に戻ってからすぐに入金するという。
…終わったな。
うっすら気づき始めた。
俺は詐欺にひっかかっている。
それから入金が途絶えた。
俺の口座から、毎月27万円くらいのお金が自動的に引き落とされていく。
俺は何度か警察に行った。
でも、必ずこう言われてしまう。
「これは無理なケースです。」
海外であること→海外でも詐欺は詐欺なのだが、ちょっと面倒らしい
俺自身がカードを貸していること→盗まれたのならともかく、カードを使ったのは俺だったということ
少しだけ返済していること→返済の意思があり、とみなされるらしい
相手はプロなので、自分が捕まりにくいようにいろいろな工夫をいっぱいしています。
なので、諦めてくださいと。
そして多くの人が騙されていたことが分かった。
特に、奥さんだと思っていた人が奥さんではなく俺よりも一ケタ以上も多くお金を失っていた。
周りの人は全員お金を使わされていた。
ただ、台湾の大物だけはお金を貸さずに詐欺師と絶縁していた。
その後被害者の会のようなものが結成され、詐欺師専門の弁護士について裁判を起した。
~~~今、係争中~~~~
あなたにお知らせしたい。
カードを貸してはいけない。
甘い言葉で近づいてくる人をむやみに信じない方が良い。
そしてなにより、詐欺なんて自分には無関係と思っていても、もしかしたら巻き込まれるかもしれないことを気に留めておいて欲しい。
あのことに関して、みんなが俺に同情してくれる。
詐欺師が100%悪いように言ってくれる。
でも、俺はそうは思っていない。
俺も悪かった。
俺も未熟だった。
そうだな、悪さ的には詐欺師60、俺40くらいだったと思っている。
俺にも隙があった。
断ることだって出来たし、実際にお金を貸してしまったのは俺なのだから俺にも責任がある。
成功者の話を聞くと、お金を騙されたりお金で失敗したことはすでに経験済みのことが多い。
だから、これは上がっていくための経験なのだと考えている。
こういうのを経験して痛い思いをするから、次から上手になっていくんだと思う。
ただ、自分が経験しなくても、話を聞くだけも経験値が上がると思うので、あなたはどうか騙されないで欲しい。
去年の年末にやっとお金を払い終わった。
毎月毎月27万のお金を引き落とされ続けてむかついたが、今はもう終わっている。
200万円近い勉強代は痛かった。
でも、俺は進化した。
もう騙されることはないだろう。
弁護士事務所に行くようになってしばらくして、詐欺師からなんと紙が送られて来た。
その紙にはこう書いてあった。
「分割で返済します。毎月5000円ずつあなたの口座に振り込みます。」と。
毎月27万円振り込まないといけないのに、5000円って。
その金額は誰が決めたのか?
てめえ、なめてんのか?
返済するのに約30年間もかかる計算だ。
詐欺師は俺より年上だったから、90歳くらいまで払い続けるのか?
いやいや、「返済の意思あり」を示しているのだ。
裁判で少しでも有利に持ち込むためにだ。
…恐ろしいことに5000円は今でも振り込まれ続けている。
5000円はきっと裁判が終わるまでは振り込まれるだろう。
だが、俺のカードはすでに甦っている。
そして、俺はいつも気をつけていることがある。
法律に触れることは絶対にしない。だ。
俺は回り道したおかげで、大学に入ったり独立するのに時間がかかったし苦労したと思っている。
だから、苦しそうな気がしても、堂々と真ん中を歩くことが結果的に一番いい道だということを知っている。
俺の塾から道を踏み外す子ができるだけ出ないように、ど真ん中を歩くことがどれだけ重要なことか、これからもみんなに話していきたい。


