映画のつくり方を、僕がこれからも伝えていく理由。
「私は今、人生で一番幸せなんです」
「ようやく、私の一番大きな夢をかなえてくれる人に出会えたんです」
外に出ると、来たときよりも雨は強くなっているようでした。
傘をささないととても歩けない。
夜空を見上げて、少しうんざりしていました。
その夜すぐ、メールが来ました。
「私の一生をかけた夢をかなえてくれる人に、ようやく出会えました。
興奮して寝られません。」
僕はそのメールに返事をしたかどうか覚えていません。
返事をしなかったかもしれません。
じわじわと、フェードアウトできればと考えていました。
しかし数日後、今度は電話がかかってきました。
あまりのしつこさに少しいら立った僕は、その企画が難しい点を指摘しました。
「あの、どうしてもダメなんでしょうか。お金なら何としてでも集めます!
どんな苦労もします!」
その後も、メールと電話は続きました。
正直、重くしか感じられませんでした。
企画の弱点を一つ一つついていっても、
彼女はがんばります、の一点張り。
「私、これを作るのが夢なんです。
どうしても、どうしても作らないといけないんです!」
電話の向こうで追いすがる彼女に、僕はとうとう、
どうしても受けられないですごめんなさい、
とはっきり告げて無理矢理電話を切りました。
そして、
電話を切った後、ものすごく落ち込みました。
その後何年経っても、僕はこのことが頭から離れません。
僕が無理矢理電話を切る瞬間に、
電話の向こうで一瞬息を吸い込んだ、
あの彼女の絶望感を考えると、吐きそうになります。
自分に、人の大切な夢を壊す権利など、ない。
僕には、その人が言った
「作らなきゃいけない作品があるんです」
という気持ちが、痛いほど分かるんです。
当時も、分かっていたはず。
なぜなら、僕自身、
「どうしても作らなきゃいけない」作品をいっぱいもっていたから。
お金を使って、制作会社に頼めばいい、
そういうことではないことも、よく分かるんです。
なのに僕は、拒否をしてしまった。
自分にはできない、と決めつけてしまった。
その後じわじわと、いろんな人から求められるがままに
映画のつくり方を伝える活動を始めることになります。
それは僕が、
映画について詳しいから始めたのではない。
教える立場が心地いいから、
何かに都合いいから始めたのではない。
今の僕は、
自分の作品を作るのと同じくらい、
多くの人が「自分の映画」を作れるようになることを大切にしています。
僕が映画のつくり方をアドバイスをするときにいつも頭に描くのは、
あの時の赤い服を着た女性です。
どうしても、どうしても作りたい、自分の映画を持っている人です。
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