空白の学習(1)

次話: 空白の学習(2)
正直な話、私の家は貧乏な家庭でした。
幼少時代、親は両親とも朝新聞配達に出ていて、
ふと目が覚めると私はいつもひとりぼっちでした。
寂しさのあまり、家を飛び出し道路で親の背中を追ったこともあります。
その時は家主さんが保護してくれたおかげで今も生きています。
あまりに心細かったのか、
大声で泣き続けヘルニア(脱腸)になったこともあります。
私は一人でいることに慣れながらも、
誰かにそばにいて欲しかったし、自分のことを見てほしかったです。
***
小学校に入ると、私は親に目を向けてもらうため、
勉強に集中するようになりました。
ついには学年で2,3番あたりをうろうろするようになりましたが
なかなか親に褒めてはもらえませんでした。
1つ上の兄の方が優秀で、学年で1番を取り、スポーツもできたからです。
私は家族の中でも常に2番でした。
***
小学校6年生になり、親の都合で米国ニューヨークに渡ると多くの仲間ができました。
めまぐるしく新たな駐在員の子どもが来ては、帰っていく環境で
子どもたちは新しい仲間を受け入れ、
帰国したらもう会えないかもしれない仲間との時間を精一杯楽しみました。
両親は子どもが短い間にもっとたくさんの子どもたちと友達になれるようにと
毎月のようにクラスの友だちをすべて集めたパーティーを開催してくれました。
日本にいる間はいじめられっこの称号を欲しいままにしていた私も(笑)
ニューヨークにいる間は仲間に受け入れてもらえ、発言力も持つことができました。
そんなあるとき、ふとクラスにいた花田くんというおとなしい友だちが
とても面白い思考とユーモアの持ち主だと気づきました。
花田くんは素晴らしい魅力にあふれた人間でしたが、
引っ込み思案なところがあり、クラスのみんなからはその魅力を
あまり認識されてはいませんでした。
私は、こんな素晴らしいtalent(才能)をみんなが楽しめないのは
もったいないと考え、花田くんにエリザベスというあだ名をつけ
(貴族のような上品な顔立ちだったので 笑)自分のパーティーなどで
いじりつづけ、とうとう花田くんの面白さはクラスのみんなの知るところになりました。
そして、いつのまにか本人からエリザベスというあだ名を使いながら
クラスの中心に躍り出はじめたのです。
私は花田くんの面白さをみんなに伝えることができ、
クラス中が明るくなったことに達成感を感じました。
***
実はこのほんの小さな経験が
・Hidden Talent(優秀な才能を持つが、広く世間に知られぬまま、
 その才能を埋もれさせてしまうこと)をなくしたい、
・一人一人の可能性を私が最初に見つけ、そばにいながら育てたい
という私の信念ともいうべき価値観をつくる契機となっていると私は感じています。
そして価値観に基づき
その可能性を育てるためのサポートをどのような側面からも
提供できる人になりたい、と思ったからこそ
私は総合商社に就職をしました。
***
まとめると幼少期の私自身には課題がありました。
・誰かに自分の存在を認めてもらいたい、そばにいてほしい
・どんなに頑張っても自分の存在はなかなか認められない、
 そばにいてはもらえない
私は誰かにその課題を解決してほしかった。
でも、それはなかなか叶いませんでした。
そんなあるとき、
他者が持つ同じような課題を自分が解決することができ、
このことに充実感を得ることができました。
これは心理学的に言えば、防衛機制の「昇華」にあたります。
また学習理論でいえばこれは
ジョン=デューイの「課題解決学習」を
はじめて後に残る形で経験した瞬間でした。
***
あとがき
Harvard Business Schoolの名物教授
Clayton M Chirstensenが人の能力は下記の3つで
評価されるという"能力モデル"を説きました。
(1) 資源
(2) プロセス
(3) 優先事項
(1) 資源とは、その人がどのような資源を持っているか(What we have)を指し、
お金や時間、知識、労力、素質、人間関係といったものが該当し
親姉妹・先生などから与えられる場合が多いと考えられます。
(2) プロセスとは、この資源を用いて新たなものを生み出す能力
(The ability to create new one using what we have)を指し、
考え方、質問力、問題解決の方法、協調性などが該当します。
これは考え方の癖ともいうべきもので自ら獲得しなければいけないものです。
(3) 優先事項とは、日々考えていることのどこに
時間や労力といった資源や、考え方を集中させるか、優先させるか
という資源配分のことを言います。
日本の子どもたちの多くは(1) 資源に該当する様々な知識を学校で学んでいますが、
私は(2) プロセスを教えるチャンスをもっと持てたら良いのではないかと思っています。
びっしりと埋まった指導要領を子どもたちに埋める作業ではなく
自分の抱える目の前の課題を考え、それを解決するための
白紙の回答用紙を試行錯誤しながら埋めてゆく「空白の学習」。
その過程にこそ、「考え方の癖」や「キャリアの志向性」
といった自分自身が獲得しなければいけない
能力との出会いがあるのではないでしょうか。

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空白の学習(2)

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