フィリピンで警察に捕まって帰れなくなった日本人の話ファイナル

2 / 2 ページ

前話: フィリピンで警察に捕まって帰れなくなった日本人の話パートⅤ









「やっ!やりました!!5000ペソでOKでした!」





それは今までに聞いた事のない部長の歓喜の声でした。



私が部長に授けたフィリピンでの最後の必殺技・・・それは「裏金」でした。



パスポートに4000ペソを挟み出国検査官に手渡します。検査官が渋るしぐさを見せるともう1000ペソパスポートの下にもぐりこませます。


5000ペソとは当時の日本円で一万五千円のレートでした。



憮然とした態度を見せつつも検査官は何も言わずに出国のスタンプを押してくれたそうです。



「裏金で物事を解決しようなんてそもそも根本的な解決ではない」



もっとも裏金を嫌い筋論で論破しようと頑張ってきた部長も最後の切り札に自分が裏金を使うなんて思いもよらなかった様子でした。



「この国では裏金を使うことも争いを小さくする意味では有効なのかも知れませんね」



出国できた興奮が冷めやらない状況でしたが自分があまりにも興奮していた事を私に悟られたくないような、すこし照れたような口調の部長の口ぶりは聞いている私も思わずにやけてしまうような話しぶりでした。



私も神経をすり減らした長い一日だったため、離陸を待たずにすぐに寝てしまいました。彼らを乗せた飛行機を見送り、私は一日遅れの休暇を楽しむためプエルトプリンセサ行きの国内便の中にいました。



長い一日だったけど無事に彼らを帰すことが出来て本当に良かった。さて、日本人を騙したあの詐欺師、商社の三倍返しはどうしてくれようか・・・バカンス中、やしの木陰でそればかり考えていました。


もしかして私は「ドS」かも知れない・・・ふと、われに返って噴出してしまう。そんな繰り返しのバカンスでした。





それから数ヵ月後、日本で彼らと会う事が出来ました。



「どうしてもお礼がしたい」といわれましたが、私もあちこち飛び回っていた時期でしたので、結局、彼らと再会できたのは年をまたいだ一月の寒い時期でした。



すっかり自信を取り戻した部長はさすが一国の社長とひと目で思わせるような凛とした雰囲気を持っていました。久々にあうアロハ君のスーツ姿もなかなか様になっていて何かを乗り越えたような大人の雰囲気がありました。



「あんな短時間で色々な事を経験したんだ、会う人会う人に凄く老けたっていわれているよ」



「日本じゃなかなか経験できないことですもんね、無理の無いことです」



「あの時、成田空港が見えたときは本当に感慨深かった、何年も日本に帰っていなかったようなそんな気分でした。」



「でも、無事に帰れて何よりでした。」



「はい、逮捕状が出てるのに出国審査官に裏金渡して高飛びしたんですもんね、私もとうとう指名手配のお尋ね者です」



「大丈夫、私はフィリピンでは前科3犯です。部長はまだまだヒヨッコです」



笑いながらビールを飲む姿はやっぱり少し白髪が目立ったかな?と、感じられるだけでとても品のある先輩といった印象は変わりませんでした。



「ところで、あの詐欺師の日本人はどうなりましたか?」



あれから部長達は帰国後、NBIが作成した被害届を公証人役場で公証文書として認めてもらいそれを地元警察に被害届を提出したそうです。しかしながら口座凍結は証拠が無ければ難しいといわれたようです。



「何しろ、詐欺師が今何処にいるか検討が付かないようです。連絡が取れないとこの先進みようが無いといわれました」



「彼なら今拘置所にいます。携帯も没収、暗い部屋でただひたすら裁判が始まるのを待ちます。もっとも裁判はいつ始まるか分かりませんけどね」



部長達が逮捕状を出した事はしらず、部長達がそろそろ空港で拘束されてマニラに身柄を戻されたと思い、様子を見にマニラの警察署にのこのこ現れたそうです。そうしてそのまま御用となり現在は拘置所で暮らしているそうです。



詐欺師は当初、部長達の逮捕状を取り下げるのと先に騙し取った100万円の返還を釈放の条件としたそうです。



「事件を取り下げたくても私のサインが無ければ取り下げは出来ない、そして、100万円は惜しいですが、私は二度とフィリピンに行く気にはなれない、したがって裁判はいつまでたっても始まらない・・・か・・」



乾杯したビールにもそろそろ飽きてきて飲み物を日本酒の熱燗に変えながら部長は少し思い立ったように上を向きました。



「しかし、不思議な事がひとつあります。簡単に警察を動かせるだけの大きなコネを持っていながら、あの詐欺師、未だに出所できないってどういうことでしょう?」



意味ありげに笑い部長の空になったおちょこに熱燗を注ぎながら



「今回はもっと大きな力が動いています。ちょっとやそっとのコネじゃありませんよ」



おちょこに注いだ熱燗を思い立ったように一気に飲み干し、そのおちょこをテーブルにトンと突きながら、



「もしかして、動いたんですか?商社の三倍返し?」




決して返事をしませんでしたが、当たらずとも遠からず、といった私の表情に部長も満足げに笑っていました。まるで何年も付き合っていた友達のように話は尽きる事無く夜は更けていきました。





「フィリピンで警察に逮捕されて帰れなくなった日本人」本当に帰れなくなったのはその詐欺師だったというお話でした。



終わり・・・



※フィリピンは寒い日本と違いとても暖かくいい国です。私がもし明日死ぬと宣告を受けたなら、最後の晩餐はきっとフィリピンのマンゴを選びます。濃さ、甘さがぜんぜん違います。

人々の恨みを買わなければとてもすごしやすくいい国です。私は決してフィリピンを揶揄している事はありません。もし、トラブルがあったらという前提でお話をさせて頂きました。ついでに一言付け加えさせて頂くなら、この事件はフィクションで実際の団体などには一切関係がございません。




著者の渡辺 忍さんに人生相談を申込む

著者の渡辺 忍さんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。