【ファイナル】マグロ詐欺を繰り返していた詐欺師集団と戦った話

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前話: ④マグロ詐欺を繰り返していた詐欺師集団と戦った話



フィリピンに出発前、会長が私の会社を訪ねてくださいました。久々に社長室で会う会長は当初の凛々しさは無く、どことなく小さくなったような印象を持ちました。





「ナベさん、何から何まで本当にすまない。おかげで会社を持ち直すことが出来そうだ。しかし捕まった菊池が心配だ。彼にも日本で待っている家族がいる。船も何もかもあきらめるので菊池をすぐに釈放してもらうように話をしてほしい・・・」




「これ、出張費用として使ってくれないか?」



帯が付いている札束を渡されました。




「出張費用はすべて会社から出ています。気にしないでください。」




申し出を断ると




「いや、社長からも許しをもらっている、フィリピンで何かと見えない経費が掛かるだろう、納めてくれ。」



社長も軽くあごでうなずきこちらを見ていました。



「分りました。それではありがたく頂戴致します。船を放棄すれば菊池さんも解放されるでしょう。たぶんそれが奴らの手口だと思います。」




「菊池さんを無事に連れて帰ります。」




会長は幾度となく私の手を握り「ありがとう、本当にありがとう」と涙ぐんでいました。私の祖父は両方とも早くに亡くなりました。



もちろん「おじいちゃん」と遊んだ記憶がありません。もし、おじいちゃんがいて一生懸命肩もみをしたらきっとこんな感じの優しい目で「ありがとう」って言ってくれるだろうな。と懐かしい温かさを感じていました。





私が運転免許センターと呼んだ混雑がひどい法廷は午前と変わりなく相変わらず「オレンジ色」の殺人罪の被疑者が私の周りをうろうろしています。




モーガンフリーマン似の裁判長が着席を言い渡すと「裁判長!」と、こちら側の弁護士が手を上げました。


「どうぞ?」


「船の所有者が論点のこの裁判ですが、先ほど菊池さん側より船の所有権を争う裁判は必要ないと提言されました」



「どういう事ですか?」



「はい、船はガマ社長側に無条件で引き渡します。」




「どの船に使用したかわからないダイナモもすべて放棄します。」





私はガマ社長をちらっと見ました。ガマ社長もこちらの視線を察してニコッと笑いながらうなづきました。



「原告人の意見は?」




「この船は私の船とわかってくれればそれでいいんです。訴えを退きます。」




白髪頭を抱えた裁判長は検事の顔を見てまるでお手上げといった表情で両手を上げました。




ガマ社長は平静を装おうと必死でした。しかし、してやったぞ顔は隠し通すことが出来ませんでした。あまりの嬉しさに笑みが止まりません。これがガマ社長の必勝パターンでした。



自分が命に代えてでも守ろうとした船をいともたやすく放棄してしまった事の悔しさが日本に帰れるうれしさを完全に超えていました。菊池さんの憮然とした態度を弁護士が一生懸命なだめてくれていました。



「さっ、菊池さん日本に帰りましょう」



頼んでいた菊池さんの荷物はNBIの職員が全てバックに詰め裁判所まで持ってきてくれていました。



このまま空港に向かおう。菊池さんと私が乗った車をパトカーが前後を挟む格好で三台で空港に向かいました。



「日本行の最終便には間に合いますね」とNBIの運転手が前後のパトカーと連絡を取りながら進みます。




「ノー!国際便には乗らない、ドメスティック(国内線)に回ってくれ。」




少し強い口調になりましたが、ガマ社長の仕掛けた罠はこれが最後だとは思っていませんでした。出国審査官に鼻薬をきかせてわれわれを出国禁止のブラックリストに登録することは容易だと思いました。


いくら船が自分の物になったからといってすべてが終わった訳ではありません。訴えを退けた人たちの多くが日本に帰国を果せていないことを見ると、ガマ社長は当然空港で罠を仕掛けるでしょう。


ブラックリストに登録されればフィリピンからの出国は不可能です。訴えを取りさげさせ、釈放されたはいいがマニラから逃げようと空港に向かった人たちはことごとくこの手を使われ空港で御用となるわけです。


そうして船はガマ社長のものになり、騙された人たちは未だ日本に帰れずマニラのアンダークラウンドの中でうごめきながら生きながらえているしか方法がありませんでした。


マニラからセブに回ってセブから日本に帰ります。

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