第二十章 トラウマと思い出
おかげで、ブログに書いたらジャンルのトップにランキングされた。それもこれも、A子ちゃんをはじめとする素晴らしい生徒たちのおかげだ。感謝している。
素行の悪い子、モンスターペアレントと呼ばれる人たちと接すると人間不信に陥る。逆に、素晴らしい子に出会うと豊かな気持ちになる。だから、アメリカでは
「怒る人より、怒らせる人が悪い」
という哲学が徹底していた。ところが、日本では怒らせる人のことは視野に入っていない。
「教師たるもの、絶対に怒らずに、生徒を見捨てずに、体罰禁止」
など、できもしない目標を掲げる。偽善と嘘の塊のようなスローガン。実態はイジメと徘徊と授業レベルの低下が広がっているだけなのに。
私はそんな渦に巻き込まれたくない。
今日も、マスコミは巨大なビルを映像で示す会社を持ち上げる。スポンサーだから大事なのだろう。メーカーなら理解もできる。しかし、教育関係つまり塾も同じ経営哲学でいいわけがない。しかし、ビルを大きさで塾や予備校を決める人が多いのだから驚いてしまう。
私が自分の塾を建てるには、父の土地と家を担保にするしかなかった。するしかないというのは傲慢だ。してもらったのだ。大都市にビルを建てられるわけもない。
賢い子もいるが、そんな現実の大人世界を見ると
「金が儲かれば何をしてもいいんだ」
と思う中学生や高校生が増えるのは当たり前ではないか。私は30年も受験指導をしている。A子ちゃんが、その後どんな生活をおくっているのか知っているし、私の勤務していた名古屋駅前の会社はもう無い。
短期的にはうまくいくように見えても、中身のない仕事をしても続かない。そんなものに頼って勉強しても、肝心なものが欠けているので成功するわけもない。世の中はそんなに甘いものではない。長期間、不特定多数の人をだますことは不可能なのだ。
だからこそ、道徳や宗教がある。人は視野が狭くて近視眼だから絶対的な生きる原則が必要だ。教育関係なら、金もうけが全てではいけない。問題児だったBくんは暴走して一生ベッドの上だと聞いた。本当は悪いものは悪いと言わなければ、悲惨な将来が待っているだけ。なのに、ビルの維持費のために私たちは
「大丈夫、お任せください」
と言わされていた。私はトラウマがあるし、ユタで経験したことを忘れるわけにはいかない。A子ちゃんのようなタイプの支持者も多い。ブレるわけにはいかない。
もちろん、私は資本主義の論理は理解している。
「大きなビルが建つ。それは、指導法が良いから生徒が集まり儲かったからだ」
そう考える人が多いので、
「そう考える人が多いのなら、でかいビルを建てれば指導法がいい証拠はビルだ」
となるわけだ。
しかし、そう考えない講師も多い。ビルを建てる資金を集める時間やエネルギーを勉強に集中する講師もいるわけだ。
一時期、地方に高校の内容を指導できる講師が地方にいないため東京で講師が授業をして撮影したDVDを日本中に配信する予備校が流行したことがあった。しかし、そのビジネスモデルは受験サプリのような安価な動画の普及で崩壊した。Youtubeには無料の授業動画があふれている。
ネットで英作文の添削を依頼すれば、誰かが添削してくれる時代だ。
これでは、生徒も保護者の方も迷うのは当たり前だ。指導法がすばらしいからビルが建つこともあるかもしれない。そんなものに目もくれず、腕を磨く小さな塾の講師もいるだろう。無料で添削してくれる人は、本当に合格できるレベルにある人なのだろうか。浪人生が返答している場合だってある。
私の塾生の子たちは、田舎の無名講師の私を信用してくれる。それは恐らく、
英検1級、通訳ガイドの国家試験、国連経験A級などに合格している。
アメリカ帰りで本場の英語を知っている。
指導した生徒が、京大医学部、阪大医学部、名大医学部などに合格している。
という事実を信用してくれているのだろう。私の方も、
1、地元の成績上位の高校生が多数通ってくれている。
2、通信生が北海道から九州までから申し込みがある。
この二つの事実にどれだけ勇気づけられていることか。
私は自分だけが正しいと主張できるほど、傲慢ではない。ただ、科学の目を持ちたいと願っている。さまざまな意見があるのはいい。しかし、生徒や保護者を食い物にするのは許せない。
賢い生徒が言うように、実証されたものだけが確かなのだろう。いろいろ試して、どれが合格に近づくために一番有効なのか試してみるのが一番だ。
でも、そんな言葉に耳を貸してくれる人がほとんどいないことも知っている今日この頃。しかし、どんな状況になっても道を誤らずにいたい。
「自分は、どうして金ばかりに走らないのだろう」
と思う。そして、思い当たるのはリンゴ箱の戸板の上に置いた靴。今では靴はダメになったら修繕などしないが、私が子供の頃は修繕していた。父は戦争から復員して何もできない状態から、靴の修繕を始めたらしかった。
そういう父を見ながら育った私は、見せかけで商売をする危険性、欺瞞性が身に染みているのかもしれない。
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