渋谷のホームレスの人たちと、まちをつなぐ小さな図書館をつくった話

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立体横断歩道の下にホームレスの方のコミュニティらしき場所がひらけていた。自分でもびっくりした。渋谷駅を出てわずか10分でみつかったからだ。私はもう10数年渋谷に通っているけれど、そこは今まで行ったことのない道だった。しかしブックコミュニティをつくるための最適な場所をみつける、ということを念頭に自分の嗅覚を頼りに歩いているとなぜか足が勝手に動き吸い込まれるようにその場所に向かっていた。「この先何かある」そんなデビットリンチのツインピークスという映画を見ているようだなと思いながら足を進めると、その場所はそこにあった。




私が今まで生きてきた中で無視してもしきれない存在、それは「ホームレス」といわれる人たちの存在だ。かつて設計事務所で家をつくっていたものの「ホームレスの人たちのためには家をつくることができない」ということに非常に無力感を感じていた。それと同時に「何で私たちはホームレスの人に家をつくれないのだろう?」という子供のような素朴な疑問がこころの内にあった。




そして今、ホームレスと言われる人たちのために家をつくろうと思っている。しかし、彼らの中には建物の家を必要としていない人が多く、さらに彼らにはもうすでに生きるより所としての人間関係やコミュニティをすでに持っている。なのでそんな思いはこちらの一方的なお節介かもしれない。しかし、私は同じ人間同士に境界線があることがとても寂しい。私は人々の心の中にあるその境界線をなくす手助けをし、渋谷に心温まる( HEART WARMING)な場所としての「まちをつなぐ小さな図書館」を考えていた。




その人は絶望を顔に浮かべながら動いていた。ホームレスの人だ。私はその表情が怖くて声がかけられなかった。近くにある今ニューヨークで人気らしいゴリラコーヒーというカフェで「あの人にどのようにして声をかけようか。。」と頭の中でシミュレーションをしてからもう一度あの場所へ向かうことにした。手土産にそのカフェでテイクアウトしたゴリラサンドを持っていくことにした。




16:00 あの場所へ意気込んで向かうも、そこには誰も居なかった。肩すかしを食った気分になる。その場所にはなぜかインドの神様であるガネーシャがまつられていた。しかたがないので近くのスターバックスへ入り、昨日買ったのにまだ少ししか読んでなかった坂口恭平さんの「家族の哲学」を読み、時間を置いてもう一度チャレンジすることにした。本当にチャレンジという言葉が似合っている。私は終始手に汗を握っていた。そして、どう話しかけようか?どういう話をしようか?何度も何度もシミュレーションをしていたので本の字面をなぞるばかりで内容があまり頭に入らなかった。




19:00 もう日が暮れそうな空が薄暗くなった時にスターバックスから外に出た。何度も渡った横断歩道を初めて渡るような新鮮な気分で渡り、あの場所へ向かった。そこには3人もいた。私の頭の中ではそこには1人しか居ないはずだったので、パニックになってしまい、また通り過ぎてしまった。そして近くの公園のベンチに座り、もうすでに冷めきったゴリラサンドを頬張りながら「この勇気の無い若者は何をしようとしているのか?」と自分の不甲斐無さを噛みしめていた。そしてこんなにも赤の他人と話すためにエネルギーが要るということに驚いていた。公園からは明治通りが見下ろすことができ、その通りにはまるで川の流れのように車が流れていた。




19:30 決意を決めて話しかけた。第一声は「この場所おもしろいですね」と言ったはずだったが、声が小さかったのか「?」という表情をされてしまい動揺して「この場所おもしろいですね」「この場所おもしろい!」2回続けて叫ぶと、リーダーらしき人の隣りに居た男が「この場所おもしろいって言ってますよ」と耳元でささやくと「おお、ありがとう!」と意外とフレンドリーな感じで言ってくれたのでほっと胸をなでおろした。




その場所は宮下公園の近くにある明治通りを渡るための立体横断歩道の下にあった。明治通り側にはガードがありそこには椅子と机が並べられている。歩道を挟んだ向かいには宮下公園の境にあたるフェンス沿いに寝るためのテントと、何枚ものTシャツやライター10個ほど、スーツケースもパンもあるごちゃごちゃとした物置場所、フェンスには「NOWAR」や「NONUKE」などというポスターが貼ってあった。そしてガネーシャが祀られ、その前に賽銭箱が置かれていた。




リーダーの人は親切にこの場所について話してくれた。8か月前から自分がこの場所にいること。その時に以前のリーダーから新しいリーダーを託されたこと。そしてこの場所自体はなんと60年も続いているホームレスの人達の場所であること。自分はホームレスというよりは「日本国への抗議の一環として」ここにいること。ガネーシャは自分に縁があるために祀っていること。たまにそこにお賽銭を置いていってくれること。お賽銭を置いていってくれる人の多くが外国人であること。そのお金が集まったときに炊き出しをやったこと。近くのビルの出入り口付近で毎朝、炊き出しをやっていること。自分は毎日食料を街から集めていること。お金を得るために空き缶を集めてそれをお金にかえていること。この場所のことがNEWYORKTIMESに掲載されたこと。Youtubeで番組をやっていること。そのごちゃごちゃした物置場所は実はいろんな人がそこに放り投げていくからそうなったんだ、ということ。USBコネクタとバッテリーが欲しいこと。テレビによく出ている所ジョージさんがたまに車で来ては1000円札を紙ヒコーキにして車の中から飛ばして去っていくこと。北野武さんにファントムの中からじっと見られてびびったこと。この場所は実にいろいろなストーリーであふれていた




その話を聞いていた私はそのリーダーの人に「この場所にまちをつなぐ小さな図書館をつくりたいこと」「そこでは自分が読みたい本があったら貰える代わりに自分の本をそこに置いていくルールにすること」そしてなぜその図書館をつくろうとしているのかという自分の想いを伝えた。するとリーダーは即答で「いいよ」と言ってくれた。こんなにあっさり決まるとは思っていなかったのでシミュレーションで心配していたことが全部吹き飛び、顔に喜びが隠せなかった。名前は「BOOK SHARE STREET」になった。直訳すると「本を共有する道」だ。そして今度は本棚を持って来ることを約束し、握手をしてお別れをした。



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