おかんの婚活(代理婚活)で結婚することは出来るのか。
ある日一本の電話が入った。
という突然の知らせだった。
電話主は、35歳も目前に迫ってきたセミロングの清楚でおとなしめのお客様だ。
正社員で独り立ち出来る収入はあるが、両親の強い希望もあり家族と同居をしていた。
うちの会員ではあるが、他で交際中ということで紹介をやめていた状況だった。
と思いながらも、電話口で明らかにお客様は泣いていた。
このまま放置したら、信頼関係に思いっきり影響しそうだ。
ということで、すぐに支度をして、いつもの喫茶店に足を急いだ。
彼女はすでに席についていた。レースのハンカチで涙を拭いている。
なんと、コロコロ転がすキャリーバッグが隣にデーンと置いてあった。
これは、マジな覚悟だろう。
しかし、突然の家出だ。衝動的だからきっと話の整理を求めるのは難しそうだ。
…どうやら、言葉にもならないらしい。ハンカチを目に強く押し当てて大声で泣いている。喫茶店では痛い視線が・・・。私が泣かしたみたいになってるな、これ。
私のほうから話をしたほうが良さそうだ。
突然女性は、涙ながらにしゃくりあげながら口を開いた。
そう、代理婚活のことだ。代理婚活というのは、息子や娘のかわりに親が婚活をするという方法だ。子どものプロフィールを持って回る。お互いに意気投合をすれば、プロフィールと連絡先を交換する。その後、それぞれの子どもにプロフィールを見せて、オッケーが出ればお見合いの場を親がセッティングするというものである。
女性は続けた。
彼女は、ここでまた涙をじわーっとためて、ハンカチで目頭をおさえた。
彼女は、お見合いの話をしてくれた。
そして母親2人と、息子と娘の4人でがっつりホテルのラウンジでお見合いが開始した。
お母様たちが、それぞれ息子と娘を紹介する。そして30分ぐらいすると母たちがいなくなり、二人っきりになった。
すこし気まずい沈黙の後、男性が口を開いた。
彼女は、ほぼ強制的に来たとは言えなかった。
彼は思わぬことを返した。
いや、本当は素敵だとか思っていなくて無理やり来たのよ!って言いたいけれども、
それは失礼すぎて言えない。
彼は続けた。
彼女の心がどんどん氷点下に下がっていく。
でも、せめても何か言い返したい。
彼女は思わず、声に出してしまったらしい。
もちろん、印象は最悪だ。彼女はお見合い後、すぐにお断りの回答を母親にした。
すると、母親は突然怒りまくったらしい。
紹介してくれた人は人間的にどうかと思った。肩書がよくても嫌よ!
ということで、彼女はいまここに座っている。
本来代理婚活というのは、そんなに悪い制度ではない。理由は2つある。一つは、単純に出会いの機会が増えるからだ。しかも代理婚活の機会というのは、本人では無理だ。親でなければ参加できないのだから(同伴する場合もあるが、親は必須だ)、自分が入れない土地を新規開拓するようなものだ。
もう一つの理由は、親は子どもよりも体験が豊かなので、一般的には相手の将来性の目利きができる。いわゆる「ヒモ男」「働かない男」などのダメンズを除外しやすい。悪い虫を撃退する大きな役割になる。
しかし、彼女のようにマイナスに働くことも結構ある。それは制度を利用する母親の問題だ。今回の問題点は3つある。
1つは、母親が子どもを一人の独立した人間として扱っていないこと。自分の分身のように扱っている。有無をいわさずお見合いを強制するのはまさにそれだ。
2つめは、娘の価値観を反映させていない。自分の価値観でしか男性を見ていないことだ。代理婚活をする前に、娘がどんな人と結婚をしたいのかをしっかり聞き取ることが大事だ。そのうえで、自分の価値観もあわせて、どっちも満たすような人を探すのが正しい方法だ。
3つめは、母親が娘からのフィードバックを受け付けていないこと。婚活というのは、ダメだと思った理由をフィードバックすることによって、だんだんお見合いの腕を母親があげていかなければならない。
つまりは、母は娘を一人の人間として扱い、自分が紹介する以上、紹介のまずかったところをちゃんとフィードバックしなければならない。
と娘が断わるときにキレる母親が世の中には多すぎるのだ。代理婚活をする以上、娘が断わることをちゃんと受け止めなければならない。
後日談だが、彼女は、そのまま物件を探し、一人暮らしを始めた。母親は家を出て行くほどに娘が追い詰められていたことに初めて気付いて、すんなり謝罪をしてくれたとのことだった。結局彼女は、うちのお見合いで結婚をしていった。
と彼女の結婚式の写真を見つめながら思った。しかし、ウェディングドレス姿の彼女の表情はどこか誇らしげで、幸せに満ち溢れていた。
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