自分の人生が大きく変わった、世界最強のチームを決める伝統の戦い『クラシコ』の一戦

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◆“怪物”クリスティアーノ・ロナウドという存在

初体験という付加価値も伴うあの試合で受けたほどの衝撃は、
恐らくこの先も巡り合うことはないだろう。


それでもあれから今に至るまでの8年半の間には、すぐにスコアやゴールシーンを思い浮かべることができる印象的なクラシコを何度も体験する幸運を得てきた。


鋭くも鮮やかな放物線を描いたジュリオ・バチスタのシュートにカンプ・ノウが沈黙した、
07年12月の0−1。


メッシをファルソ・ヌエベ(偽9番=偽センターFW)に起用するグアルディオラの奇策が大当たりし、
バルセロナが敵地でゴールラッシュを実現した09年5月の2−6。


モウリーニョがレアル・マドリードの監督として初めて臨んだクラシコで、
真っ向勝負を挑んだ結果マニータ(手→5本指=5得点)の屈辱を受けた10年11月の5−0。


11年に実現した史上初のクラシコ4連戦も忘れられない経験だった。

モウリーニョの度重なる挑発的発言、そしてピッチ上で繰り広げられるラフプレイとシミュレーションの応酬により、当時の両チームの敵対関係は見ている側まで気が滅入るほど張りつめた、非常に不健康な状況に陥っていた。


それでもクラシコ史上最も濃密な17日間を通して、対照的なプレースタイルを極めた2人の指揮官を中心に、サッカー史に燦然と輝く名勝負が繰り広げられたことは確かだ。


中でも4連戦の2戦目、バレンシアのメスタージャで行われたコパ・デル・レイ(スペイン国王杯)決勝では、スタンドを二分した両軍のファンが中立地開催でなければ決して味わえない特別な雰囲気を作り出す中、内容的にも見応え十分の攻防を堪能することができた。


この日の延長前半13分、驚異的な跳躍からクリスティアーノ・ロナウドが決めた決勝ヘッドにより、
レアル・マドリードは初めてグアルディオラ率いるバルセロナから勝利とタイトルを奪い取ることに成功した。


このゴールはまた、それまで「バルセロナ恐怖症」と揶揄されるほどバルセロナ戦では活躍できなかったクリスティアーノ・ロナウドが、とうとうコンプレックスを払拭した証となる一発でもあった。


メッシの天才ぶりとは対照的に、クリスティアーノ・ロナウドは客観的な自己分析と地道なトレーニングを何年も繰り返すことで自身の弱点を補い、
長所を伸ばしながら世界最高レベルのプレーヤーへと進化してきた努力の人だ。


劣等感や反骨心をばねとしてきた彼の成長ぶりは対バルセロナの歴史にもよく表れている。


レアル・マドリード移籍1年目はグアルディオラ率いるバルセロナとの間に歴然たるチーム力の差があったため、無力感に打ちひしがれながらチームが攻め崩されていく様を眺めるばかりだった。


それがあのクラシコ4連戦を通して互角に戦える手応えを得ると、
翌シーズンのコパ・デル・レイ準決勝では1ゴール及ばず敗退したものの、
自身は2試合共に1ゴールを記録。

さらに同年4月のアウェー戦でも決勝点を決めるなど、徐々にバルセロナキラーぶりを発揮していくようになっていった。


「落ち着け、俺はここにいる」


当時のクリスティアーノ・ロナウドはバルセロナ相手にゴールを決めるたび、
そんな仕草で自身の価値を周囲に誇示していた。それが今ではゴールを決めても特別に感情を爆発させることなく、あたかも決めて当然と言わんばかりの余裕を見せるようになっている。


多くの識者がサッカー史上最高の選手とまでみなしているメッシとキャリアのピークが重なる不運を嘆くこともなく、己のポテンシャルを頑に信じ、ひたむきな努力を続けることで、
クリスティアーノ・ロナウドはメッシとあらゆる個人タイトルを争うライバル関係を築くに至った。


そんなクリスティアーノ・ロナウドの存在がなければ、近年のクラシコはバルセロナの一人勝ちが延々と続く、何とも味気ないものとなっていたかもしれない。


 

(写真:バルセロナの黄金期を築いた元ブラジル代表のロナウジーニョ)


◆クラシコに訪れる新時代の幕開け

 一時代のクラシコを象徴していた
グアルディオラ対モウリーニョ、メッシ対クリスティアーノ・ロナウドの構図に加え、

ここ1、2年のクラシコは新たなエース候補たちの存在感も増してきた。


11月21日に開催される今シーズン1発目のクラシコに向けては、残念ながら怪我の影響によりメッシの出場が危ぶまれている。
一方のレアル・マドリードもベイル、ハメス・ロドリゲス、ベンゼマら他の役者の相次ぐケガに悩まされている現状だ。


それでも今のバルセロナはメッシに全てを委ねていた数年前までとは違い、
ネイマールとルイス・スアレスがエース不在時のチームをしっかり支えている。

レアル・マドリードもヘセ、イスコ、ルカス・バスケスら若手の奮闘により、多数の離脱者を抱えながらもバルセロナに次ぐ2位に位置している。


思えば8年半前のあのクラシコも、戦前の両チームは散々な状態にあった。

バルセロナは前節の直接対決に敗れてセビージャに首位の座を奪われ、ミッドウィークにはアンフィールドにてリバプール相手にチャンピオンズリーグ(CL)敗退を決めたばかり。

一方のレアル・マドリードも前節へタフェと引き分けて4位に後退し、
CLではバイエルンに敗れていた。


これで直後のクラシコでも無様な負け方でもしたら監督は即解任、選手たちのモラルも崩壊しかねない大惨事となる危険性がある。


あの試合ではそんな崖っぷちの状況が良い意味での後押しなり、両監督がリスクを承知で攻撃的な姿勢を打ち出した――バルセロナは直前の2試合で試しただけの3−4−3でスタート、
レアル・マドリードはトップ下のグティに加えてファン・ニステルローイ、ラウール、イグアインとFWを3人同時起用――ことで、史上稀に見るスペクタクルな打ち合いが実現した。


今回も同様の派手な打ち合いが繰り広げられるかどうかは分からない。
それでも、もしかしたら後世に語り継がれるスーパープレーが見られるかもしれないと考えるだけで、一度その魅力を経験してしまった人間はクラシコに大きな期待を抱かずにはいられなくなる。


それに、少なくとも超満員のサンティアゴ・ベルナベウが作り出す雰囲気が、
他の試合では味わえない特別なものとなることは保証されている。
それだけでもスタジアムに足を運ぶ価値は十分にある。


それに、特別な因果を歴史的に抱える両クラブの戦いは、世界最高のスポーツエンターテイメントの一つとして、サッカーファンならずとも一見の価値があると僕は思っている。


決戦は11月21日。日本ではWOWOWで生中継されるこの試合を、
一人でも多くの人に観てもらいたいと、心から願っている。

http://www.wowow.co.jp/sports/liga/clasico.html

 


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