わたしの人生を素敵なものにしてくれた、それは父の「雷」と1冊の本。
両親が38歳のときに生まれた私。
「勉強しろ」と言われたことは一切なく、
自分に非があること以外で怒られたこともない。
何事も自分で考えて決断できる人生を歩ませてくれた。
遅く生まれた子どもだから甘やかされたのかといえばそうでもなく、
食べ物の好き嫌いには厳しかったし、
サンタさんがプレゼントをくれるという文化は無かったし、
高校の合格祝いに携帯電話を買ってくれたはいいものの、
「料金は自分で払え」という世の中の世知辛さを教えてくれたりもした。
そんな両親も還暦をすぎ、帰省すると「肩が上がらない」だの「血圧が高い」だの、どこかしら身体の不調を訴えてくるようになった。
年々小さくなっていく両親の背中を見て、
1番「ありがとう」を伝えなければいけないことはなんだろうと考えてみると、たくさん絵本を与えてくれたことだと思う。
共働きだった両親流の子育て方法
先述のとおり、勉強を強要する親ではなかったのだが、
共働きということもあり、兄とわたし、二人の子どもの面倒を見ることが難しかった両親は
子どもを夢中にさせる娯楽 ⇒ 絵本
ということで、幼少期の頃からたくさんの絵本を読ませてくれた。
絵本に夢中になっている間は静かなので、
仕事と家庭の両立に欠かせないものだったという。
絵本を読むことは、公園や遊園地に遊びに行くのと同じようなもので、
知らない世界、楽しい世界に飛んでいける物語にどんどんのめり込んでいった。
保育園で母の迎えを待つ間も、黙々と絵本を読んで待っていた。
仕事を終えてから迎えに来るので、母が来るのは大体1番最後。
保育園の先生を独り占めできる貴重な時間だったのだけれども、
自分のために一緒に待っていてくれる先生に、
子どもながらに「迷惑をかけてはいけない」という思いがあって、うまく甘えることができなかった。
家でも保育園でも、とにかく本ばかり読むようになったわたしには、
忘れられない特別な本がある。
その本との出会いは、父の怒りによってもたらされた。
突如落とされた父の雷が1冊の本との出会いに
確か、保育園から新しい幼稚園に転園して間もない、年長くらいの歳の頃だったと思う。
夏休み真っ只中のある日、突如父の雷が落とされた。
毎日だらだらと怠惰に過ごすわたしを見兼ねて、
トラウマになるんじゃないのか、というくらいの剣幕で父がの雷が落ちた。
それはもうなかなか強烈に怖くて、鬼の形相を物理的に見た貴重な経験だ。
父はそのままどこかに出かけてしまい、しばらくしてわたしの身体(当時4歳か5歳)の半分はあるんじゃないかというくらい大きな本を抱えて帰ってきた。
だらだらするならこれを読みなさい!と、手渡されたのは童話集。
『シンデレラ』とか『醜いアヒルの子』とかではなく、
『赤い靴』や『青い目をしたお人形』など、ちょっと大人向けの作品が収録されていた。
物語はハッピーエンドで終わると思っていたわたしにとって
悲しい童話はとても目新しく、毎日毎日夢中で読んだ。
幼稚園のころから「好きな色は青」が変わらないのは、
この童話に描かれていた挿絵の青がとてもきれいだったからだ。
本好きは小学校に上がってからも、今に至るまでも変わらず、
好きが高じて仕事もそういう分野になり、
おかげで毎日文字に埋もれて暮らすことができている。
今では父が「読みやすくて面白い本はないか」と声をかけてくるのだが、
わたしが読書を好きになったキッカケが自分であることを覚えているのだろうか。
本が連れてきてくれた出会い
本をキッカケに好きになったものもたくさんある。
絵本の挿絵の青がとても奇麗で青色を好きになったことから、歌川広重の青(ヒロシゲブルー)やフェルメールの青(フェルメール・ブルー。ラピスラズリが原材料になっている)など、絵画の色彩に興味を持ち美術鑑賞が好きになり、
チャップリンの伝記を読んで「モダン・タイムス」を鑑賞し映画を好きになり、
伝記ものが楽しくて歴史を好きになり、
童話を読んで童謡を聴くようになり、音楽を好きになった。
つきっきりで面倒が見られないから、寂しい思いをさせるから。
そういうネガティブさを「本」という媒体で
とても価値あるものに変えてくれた両親。
好きなものがたくさんある生活は、時間や金銭面に余裕がなくても楽しくやっていける、鬱や自殺が社会問題になる現代においてはとても価値のあることだと思う。
そんなふうに日々を過ごせる子どもの親であることを、少しでいいから自慢に思ってくれていれば嬉しいな、と考えたりする。
いつか子どもを産んで親になっても仕事は続けていきたいから、
寂しい思いをさせるかもしれないし、甘え下手で気遣い屋さんの、ちょっと損な性格の子に育つかもしれない。
だからその代わりに、なにかを好きになるきっかけを沢山与えられる親になりたいと思う。
それがわたしにできる唯一の親孝行でもあるような気がするし、
与えたきっかけの中から大切なものを自分で選んで、わたしのように毎日を楽しく過ごしてくれたら、そんなに幸せなことはない。
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