オーストラリア留学中にネット中傷被害に合い、裁判を起こした話(13)
Geelong 1日目
Geelongに着いた。電車を降りると、私はすぐにその女性に連絡を取った。
駅には小さな待合室があり、コーヒーとお菓子を売る小さな売店が一角にある。日差しが非常に強く、とても外にはいられないので、私は待合室で彼女が来るのを待った。
「久しぶり!」
やって来たのはGeelongに住む日本人女性のエリコ(仮名)。オーストラリア人男性と結婚してGeelongに暮らすエリコとは、数ヶ月前に友人の紹介で知り合った。
数ヶ月前、そう、Deanaによる嫌がらせが始まる数ヶ月前に・・・。その頃、私のメルボルンでの留学生活は希望に満ちあふれていた。
限られた留学生活の間、もっと多くの人たちと知り合いたい、現地に友人を作りたい・・・。そんな思いから、私はランゲージエクスチェンジに参加したり、BBQパーティーに参加したり日々社交的に過ごしていた。4話で書いた交流会にも積極的に参加していた。
あの頃はなんて楽しかったんだろう。あんなにやる気にあふれていたのに、自分はどうして今こんな状態なのだろう。
悔しい。
ただ、ひたすら悔しかった。
エリコの家の近くのガソリンスタンドでアイスクリームを買って(※ オーストラリアのガソリンスタンドには小さなコンビニのような店があり、お菓子や飲み物などを売っている)、エリコの家へ向かった。
エリコと直接会うのは二度目だったが、知り合ってからFacebookやメールで何度もやり取りしており、せっかくGeelongに来ることになったので会えないか尋ねたところ、快く時間を作ってくれた。直接会うのは二度目とはいえ、エリコは私のFacebookを確認していたので何が起きたのは大筋把握していた。
私は改めて、Deanaが私に嫌がらせをする為に何をしたのか全てをエリコに話した。この時、もともとはアイの紹介でDeanaと知り合ったということ、私たちと知り合う前にDeanaが他のアジア人とトラブルを起こしていたことは話さず、端的に自分がどのような嫌がらせを受けているのかを話した。そして、このような卑怯な方法で私のたった一度の留学生活の邪魔をされていることが許せないと・・・。Deanaが憎いと・・・。
エリコからは意外な反応が返ってきた。
「詳しい経緯はわからないけど、ここまでのことをしてしまうってのは、何かMamiちゃんがしたことにDeanaも相当傷ついたからじゃないのかな・・・」
エリコの反応は当然といえば当然だ。
Deanaは何らかの理由があって、私に対して "これだけのこと" をしたのだ。
私は確かにDeanaを傷つけていただろう。それまでは仲良くしていたにも関わらず、
とバッサリ切り捨てたのだから。
だが、よくよく考えてみてほしい。
本当にDeanaは私と仲違いしたことがきっかけで嫌がらせを始めたのか?この出来事が、ネット上で私を中傷するトリガーとなったのか?
私にはとてもそうとは思えなかった。
第3話に書いたように、私は2月6日にDeanaと口論になり、絶縁している。そして、その20日後の26日にDeanaが私の偽アカウントを作り嫌がらせを開始するまで、私に対して表立った嫌がらせは一切行っていなかったのだ。(私の陰口を吹聴していた程度である。)
また、この20日間の間に、私だけではなく複数の共通の友人がDeanaから距離を置き、連絡を絶っていた。私と同じように、ささいな出来事がきっかけで口論となり、そのままケンカ別れととなった友人もいた。Deanaに対して、私と同じ行為を行ったこの友人達に対し、Deanaは一切嫌がらせは行っていない。ただ、友人関係が壊れたことの腹いせに嫌がらせを行ったのであれば、他の友人達に嫌がらせを行っていてもおかしくないのにも関わらず、ターゲットになったのは私だけである。
2月26日直前にDeanaがショックを受けたこと。Deanaを傷つけたこと・・・
この一連の嫌がらせのトリガーとなった出来事・・・
アイがDeanaを拒否したこと、これ以外考えられない。
アイに拒否されたことが、彼女をどれだけ傷つけたのか・・・そう、エリコが言ったように、Deanaは相当傷ついたのだろう。そして、実際に、Deana自身がそうだと証言している。どういうわけか、Deanaを自分の意志で拒否したアイは標的にならず、私に標的が向いてしまったことが悔しくてたまらない。
せっかくGeelongまで来たのにこんな話ばかりしたくもなかったので、エリコとはその後Geelongの話やエリコの仕事の話をして過ごした。暗くなる前には滞在先のホテルに向かいたかったので、エリコにお礼を言って、市街地にあるホテルに向かった。エリコと話したことで、自分が受けた辛い出来事を第三者に伝えることの難しさを痛感していた。
私の思いをエリコに上手く伝え、理解してもらうことはできたとは言えなかったが、私は今でもこの時エリコが私に会うために時間をとってくれたこと、家に招いてくれたことに感謝している。実は、エリコと知り合った時にはもう一人の日本人女性もおり、彼女にも会おうと誘っていたのだが「用事があるから」とエリコ経由で断られていた。
本当に用事があったのかもしれない。忙しかったのかもしれない。偶然だったと言えなくもないが、私が嫌がらせを受けてからしばらくして、この女性からパタリと連絡が途絶えた。この女性だけではなない。それまで私に連絡をとってくれていた多くのFacebook上の友人が次々と私の友達リストからいなくなった。そんな中でも会ってくれたエリコ。今でも友達でいてくれている本当の友人達には感謝してもしきれない。
知らない街、誰も知り合いがいない街を一人で歩いていると、少し気分が晴れていくように感じた。
ホテルに着いてチェックインを済ませると、一旦外出して近くのレストランで持ち帰りの食事をオーダーし、また部屋に戻った。
部屋でくつろぎながら、私は携帯でメールを送っていた。信頼できると判断した友人、嫌がらせの後も心配して連絡をくれた友人、知人に新しい携帯番号を知らせるためだ。Deanaが出会い系サイトに私の携帯番号を投稿したことがわかってすぐに番号は変えていたのだが、この時点までごくごく限られた人たちにしか新しい番号を知らせていなかったからだ。
メールを送り終えると、なんだか急にどっと疲れが出た。気がつくと、ホテルの部屋のソファに座ったまま次の朝まで眠っていた。
(思いっきりブレてますが、泊まったホテルの部屋。一人なのに広い部屋を用意してもらえて、大きいベッドでリラックスするはずが、手前のソファで寝てしまうという・・・)
Geelong 2日目
3月10日(日)
ホテルをチェックアウトし、荷物を駅のロッカーに預けてから市内観光をすることにした。
・・・・が、目ぼしい観光施設があるわけではない。
何も考えず、ひたすら歩き回った。真夏の暑い日で、ストレスと暑さで食欲が無かった私はセブンイレブンのSLURPEE(※下の画像のような、フラペチーノみたいな飲み物。味はコーラとかレモネードとかクリームぽくなくてサッパリしたものが多い)を片手に街を歩き回っていた。
(色はここまで実際どぎつくないです。レジでお金を払い、自分で機械からカップに入れます。)
青空が広がる、暑い一日だった。浜辺の近くを歩いていると、プールで遊んでいる地元の人たちと海が見えた。
目的も無く、ただひたすら歩き回った。メルボルンとは違い、日本人どころかアジア人の姿もほとんど見られない。誰も自分のことを知らない。疲れ切っていた自分の心に、この状況は心地良かった。
実は、アイはこのGeelongの街で学生時代を過ごしている。普通に考えたらトラブルの原因となった人物に関わりの街で休暇を過ごそうなんて考えないが、どういうわけか当時の私には気にならなかったのだ。今思えば、当時の私の頭はショックのあまり相当機能していなかったのだろう。
浜辺に沿って、あてもなくどんどん歩いた。しばらく歩くと、日陰になった座る場所を見つけたので腰を下ろした。
目の前を黒鳥がプカプカ泳いでいる・・・。静かで、そして何よりも
と思った。目の前を泳ぐ黒鳥、波の音・・・。
一体、自分は何をしているのだろう・・・。自分は本当にグラフィックデザインがやりたかったのだろうか・・・。今後、どうすれば良いのだろうか・・・。みんな私に起きたことをどう思っているのだろう。自分じゃなくて良かったと思っているのだろうか。気にもしていないのだろうか・・・。
30分ほど、何もせずにただ海を見ていると、色々な思いが込み上げて来た。
そして、ふとある思いが心に浮かんだ。
メルボルンに戻ったら、月曜日から何とかして遅れを取り戻そう。こんなことに邪魔されていてはいけない。自分は人生を変えたくてメルボルンに来たんだ、こんなことで負けていてはいけない。明日からはまた学校だ。遅くならないようにメルボルンに戻ろう。
立ち上がると浜辺を離れ、駅に向かった。乗る予定の電車までまだ時間があったので、駅の近くの小さな美術館へ行ってみたり、街中の風景を写真に撮ったりして過ごした。メルボルンで最初に通った専門学校で、授業で美術館を訪れたり、写真の授業で風景写真を撮ったことを思い出した。希望にあふれていた頃だった。まさか、翌年自分がこんなトラブルに巻き込まれるとは、本当に本当に夢にも思わなかった。
時刻は既に夕方になろうとしていた。昨日と同じ電車に乗り、私はメルボルンへ戻ろうとしていた。
気分は晴れていた。頑張ろう、起きてしまったことは仕方が無い・・・。自分が頑張れば、まだ取り戻せる。大丈夫、大丈夫・・・。
それは全て錯覚だった。気分は晴れてなんていなかった。この時の私は、本当の自分の気持ちにさえも気がついてなかったのだ。それに気がつくのは、2日後のことだった。
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