あの頃、ビアハウス:六甲おろし

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後編: あの頃、ビアハウス:モンテカルロの夜

1970年代も後半、わたしが心密かに「人生のるつぼ」と呼んだ大阪、梅田新道にあったアサヒ・ビアハウスでのできごとをレトロ感覚で綴っています。

1970年代の梅新ビア・ハウスは、夕方6時半ともなると、ホールは満席になるほど盛況であった。常連が多く、明らかに彼らがビアハウスの雰囲気を盛り上げる一端を担っていた。
        
その常連はと言うと二組に分かれていた。毎日欠かさず通ってくる「毎日常連」と、決まった曜日に来る「曜日常連」である。彼らはみなそれぞれに一曲だけ持ち歌があり、ビア・ハウスに来る客の中には、歌姫のよりも彼らの歌を聞くのを楽しみに来る客も多いのである。

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↑知る人ぞ知る小さな丸テーブルを囲むアサヒ常連の立ち飲み席。どこの店でも常連の席を確保するものであるが、アサヒでは常連自ら立ち飲み席を陣取る。

さて、野球のシーズンともなれば、ビア・ハウス内のそこここで、タイガースファンこと「トラきち」(タイガース気狂い)が席を陣取ることになる。みな口角泡とばし、贔屓チームの持論を振り回すのである。このシーズンは毎日常連の杉ヤンの出番である。

杉ヤンは仕事が退けたあと、自ら一日の労をねぎらうために、毎夕帰途にあるこのビアハウスに足を運んで来る常連の中の常連で、自他ともに認める「トラきち」である。
 「杉ヤン、六甲おろし、行け!」
場内の興もたけなわになったころ、ヨシさんのアコーディオンが杉ヤンを呼ぶ。

       ♪六甲おろしにさっそうと
        そう天かける日輪の~
      
       で始まる「六甲おろし」、
      
       ♪お!お!お!おー、阪神タイガース
         フレーフレフレフレー
  
       と、場内は沸きに沸く。

     アサヒビアハウス
    体を前後に揺らしてリズムをとり、声張り上げて応援歌を歌う杉やんスタイル。

 すると、「六甲おろし」の直後に、すかさず出てくるのが対抗歌「巨人の星」の主題歌「行け行け飛雄馬」だ。
     
♪思い込んだら試練の道を
  行くが男のど根性
  真っ赤に燃える王者のしるし
  巨人の星をつかむまで~

どこかに必ずいるものです、巨人ファン。
オー!オー!とあちこちで気勢があがり、場内はまさに総立ちの景観。これを見ては、映画「カサブランカ」において、ハンフリー・ボガード扮するリックの酒場でナチ将校たちが歌うドイツ国歌に負けじと、反対のコーナーからフランス人達がいっせいに「ラ・マルセーズ」を歌い、火のような対決の二つの合唱がかちあう場面をわたしは思い出して

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