電車は午後の陽を受けて進む

数日前から発熱が続き、昨日は仕事を休む。今日は午後から出勤とする。

朦朧とした意識で眺める電車からの風景は、いつもの風景とはすっかり異なり、全く違うどこか別の場所に来ているような錯覚を引き起こさせる。

青砥で日暮里行き列車に乗り換えるために電車を待つ。じっと立っているのがつらく、フードを深くかぶり、ホームの隅から隅までを行ったり来たりしながら時間をつぶす。

時刻表の前で、母親と息子二人らしい3人組と目が合う。丸坊主の鼻毛がぼーぼーの兄ちゃんが、何か言いたそうにこちらを見つめている。手には、英語の乗り換え案内が握られている。

青砥で乗り換えて、押上で降りたいらしい。

路線を確認して、さっき、あなたがたが降りたこの電車に乗れば一駅で着くことを説明する。しかし、納得しない。英語での乗り換え案内では、青砥で乗り換えることになっているためだ。

散々説明して、間違いないことを理解してもらって、3人は自分が今さっき降りた電車に乗り込む。僕は上野行きの電車に乗る。列車はほぼ同時にホームを滑り出し、2つの列車はしばらく並行して走る。

僕は、向かいの列車に乗っている3人組を見つめる。向こうも、不安な表情で僕を見つめている。僕は、片方の眉毛と右手の親指をあげて「大丈夫だぜぇ」サインをフィリピン風で送る。3人の表情が微妙にゆがむ。

もし、これがフィリピンだったら、絶対違うところに連れて行かれることだろう(僕自身、何度このドヤ顔にやられたことか)。しかし、今回に限っては大丈夫だ。鼻毛の兄ちゃんよ、しっかり親孝行したまえ。

日暮里行きの列車に乗り込み、腰を下ろすと、向かいには、身なりの良い熟年夫婦。奥さんにせがまれて念願の日本旅行を果たしたところらしい。静かにタイ語で会話を続けている。

旦那が日本料理は味がないというと、奥さんは体にいいのよと諭す。さらに、来年、娘の留学先は日本にしたらどうかと旦那にせがむ。

「ねえ、それで、娘のために東京にコンドミニアム買ったら、いつでも遊び来れるし、ホテル代も節約できるでしょ?」

旦那はまんざらでもない様子で答える。

「ああ、それもいいかもな。留学するとなれば、ホテル暮らしもいろいろと不都合だし、ちょっと○○さんに聞いてみよう。」

さらりと言いますね。そして、○○さんって誰だ?

電車は午後の陽を受けて進む。

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