『ペ●スノート』:Page 5「嘘」
剣(ないと)は、虹空(にあ)と死神リ・ユークを交えて自室で『たんこぶ試食パーティー』を行っていた。先程、死神が二人の頭にゲンコツを下し、まるで子供向(チープ)なギャグ漫画にあるような大きなたんこぶが二人の頭上にて、祝福の歓迎(ファンファーレ)と共に生まれた訳だが、「これ調理して食べたらうまいんじゃね?」という虹空の謎の提案により、二人の頭からたんこぶをもぎり取り、何故か調理して食すこととなった。
調理を行なったのは言い出しっぺの虹空だ。なんでも長期休暇で、旅先のとある港町のレストランでアルバイトをやっていた経験があるから調理には自信があるのだそうだ。ちなみに料理の材料にする予定だったシマエナガを生きたままつまみ食いしたことが理由でクビになってしまったという事実も判明した。まるで豆大福みたいだったので、思わず口にしたくなってしまった・・・・というのが、彼の動機だ。つくづく、虹空は奇を衒うような・・・・いや、虹空自体が”奇”という概念そのものを体現したような存在なのではないかと剣はぼんやり思っていた。
そして、アルバイトという形態とはいえ、さすがレストランで働いていた経験の持ち主からか、彼の調理したたんこぶ料理はなかなか美味しかった。とても前述の狂気じみた行為によって解雇されたとは思えないくらい、虹空の料理の腕は高かった。
「クククククク・・・・人間はいつもこんなうめェものを食ってるワケか・・・・面白(おもしれ)ェな!」
死神もご満悦な様子だ。でも一つだけ言いたいことがある。たんこぶ料理をいつも食べている人間は、まず居ない。異常(アヴ・ノーマル)な連中が集った故にこうなったのだ。あ、言っておくけど異常(アヴ・ノーマル)か連中っつっても、虹空と死神のことだからね。決して私、多田 剣は奴等のような愚者(あたまのなかがいっつもパーリィーなやつら)とは違い、至って健全な中学三年生(フレッシュ・ボーイ)だ。そこの所、よぉく覚えておいてくれ!・・・・と、多田 剣からそう書いてくれ、頼むからと強要されたような気がしたので、とりあえず念のために記しておく。
「そういやロク⚫︎ンのゲームかなんかでさ、道の途中にポークビッツみてえなクソ青もぐら野郎がいてさ、そいつのことハンマーでぶん殴るとたんこぶ出てきてさ。それ食べると地味にHP回復するってこと無駄に思い出したわ。あれ何てゲームだったかなぁ・・・・」
虹空がまた無駄な回想に入ろうとしている。いけない!早く本題に戻らねば!
「そういえばリ・ユークさん、ペ⚫︎スノートのこと知ってるみたいですけど、あれって一体何なんですか。」
剣が尋ねると、死神はまたしても不気味な笑みを浮かべつつ、たんこぶ料理を口に入れながら言葉を発した。
「あのペ⚫︎スノートはな、疫病神界の道具なんだぜ。クククククク・・・・」
さらりとした梅酒の如く、さらっと疫病神という単語を出してきた。どうやら、死神だけでなく疫病神も実在するようだ。
「”疫病神も実在するのか”、みてェなこと思ってそうな顔してやがるが、そのペ⚫︎スノートに触った人間はな、この世界を彷徨っているありとあらゆる神を全て見られるようになるんだぜ。現に、死神であるオレ様のことが見えてるだろ?」
またしても心の中での呟きを死神に読まれてしまった。一体こいつはどうやって言葉として発していない思考を読み取ってるんだ?それはさておいて、その性能は何となく楽しそうだ。今度神社とかに行って、祀られている神が居ないのにお参りしてる奴らを見かけたらドラゴンフルーツの皮でも投げてお見舞いしてやろう。そして皮まみれになったアイツらを見て「へんっ、このスウェーデンの雑巾拭き共め!ピスタチオの殻剥きでもしてな!」と揶揄ってやるのが奴等にはお似合いだぜ。あ、別にスウェーデンとかピスタチオには何の怨みも妬みはないよ。例えだよ例え。というか、たまたま頭の中で思いついた横文字を並べてるだけで何の思い入れもないから。そこんところよろしく←(by. 多田 剣)
「てことはさー!ちくわ大明神も見れるのー???」
「いや、そんなのはいねェ。」
「ちくわ大明神見たーい!!!」
「だからそんなのはいねェっての。」
「ちくわ大明神ーーーーーーー!!!!!」
「んなモンはいねェっつってんだよォ!!!!あと落ち着け!!!!」
虹空がまた暴走し始めている。それをなんとか抑止しようとする死神。またしても混沌(カオス)が訪れる予感がした剣は、すぐさま死神に問いかけた。
「あ、あの、このペ⚫︎スノートって使ったらどうなるんですか?」
死神は、とりあえずその場にいた守谷(もりや)君に頼み、虹空の口元を封じさせた。
「使ったらどうなるって、おめェ、ペ⚫︎スノートの説明書読んでんだからそのくらいわかってんだろ??」
ああ、わかっている。とても信じがたい内容だが。しかし、あの内容はペ⚫︎スノートに名前を吹き込まれた人間がどうなるのかを書いただけで、使った者がどうなるかについては記載されていないのだ。剣、そこちょっと不安。
「いや、でもあれペ⚫︎スノートを使った人間がどうなるのかについては書かれてないんですよ・・・・。知ってますかね・・・・?」
不安げに質問した剣だったが、死神から発せらた答えは明快かつ意外なものだ。
「いや、特に何もないぞ。あれを使った所でお前に何かが起きる訳じゃない。・・・・まぁ、神が見えるようになるってのはあるがな。」
呆気ない表情をしている剣に対し、死神は立て続けに答えた。
「それに、ペ⚫︎スノートにしろ何にせよ、オレたちの住む世界の道具が人間界に落とされたらな、所有権は人間界に住む者にも移るんだ。だからソレを拾った時点で、ペ⚫︎スノートはもうお前のモンだ。」
ペ⚫︎スノートが僕のモン・・・・もんもんもんもんもんもんもん。まさか、こんなに恐ろしい・・・・いや恐ろしいのか?まだこの時点で一度も使っていないのに恐ろしいという印象を与えるのはどうかとは思うものの、かといって「こんな使い道のないワケ分からんポンコツ」と書くのはさすがに流れ的に台無しなので、便宜上恐ろしい道具ということにしておくが、世にも恐ろしい道具が自分のモノとなったことを知った剣、深く動揺していた。
「ところでSir、死神さんの名前は何て言うのん?」
動揺している剣を他所に、今更死神の名前を聞き出す虹空。仕方ない、仕方ないんだ。虹空は自分のペースを貫く人間なんだ。なので剣は気にしないし、死神も死神で何故今更そのことを聞いてくるのだと、というかこれまでの会話である程度は予想つくやろと思ったが、これまでの虹空の一連の行動を見て色々察した死神は、その思いを心の中に留めておくことにした。
「そういやおめェにはちゃんと自己紹介してなかったな・・・・オレ様の名前はリ・ユークだ。よろしくな。」
死神の名前をようやく知れた虹空だったが・・・・どこか不満気な顔だ。そりゃあそうだ。だって、諸にアレだもんね。アレそのまんまだもんね。あ、アレが何なのかは言わないよ。その辺は察してCHO☆・・・・と剣は思うのだった。
不満な表情を浮かべている虹空の顔に、死神もやや気に食わない様子だ。
「オイオイ、おめェオレ様の名前が気に食わねェのか?・・・・或いはオレ様がウソついてると思ってんのか?あァ?」
死神もどんどん機嫌(おコギ)が悪くなっていく。部屋の空気は徐々に重圧が増してきている。そんな悪い雰囲気の様子を、床に放りっぱなしにされた、何の変哲もないたわしは静かに見つめていた。
「オレ様は正真正銘のリ・ユーク様だぞ?それにな、オレ様は生前は学問に秀でてな、数学かなんかでオレ様の名前を使った定理まであるんだぞ。それをおめェは疑うワケか?んぁ?」
死神は完全に喧嘩腰になっていた。その一方で剣は、ちゃっかり死神の生前と、「てか死神にも生前とかあるんだ。」という事実を知り、再び動揺していた。しかし、数学を勉強しててリ・ユークなんて単語、一度も出てこなかったんだけどなと心の中でぼやいていた。虹空は、しかめっ面をしていた。
このひどく居心地の悪い雰囲気は続いたが、守谷君が腕立て伏せを30回し終えた時、ついに虹空が言葉を発した。
「キミが言ってるその定理とやらって・・・・もしかして”リー・ヨークの定理”のこと言ってんの?」
死神は思わず「えっ」と言葉を洩らしてしまった。剣は死神の反応に耳を疑った。えっ、もしかしてリ・ユークって名前、嘘だったんすか?
「ちょっとそこのノートパソコン拾ってcho」
別の筋トレに移ろうとした守谷君は一旦トレーニングを中断し、床に放置されていたノートパソコンを虹空に渡し、すぐさまトレーニングを再開した。ノートパソコンは先程何回も叩きつけられたからか、細かい罅が所々に入っていた。しかし、こうして虹空がまたノートパソコンを使っていても何も支障をきたしていない所から見ると、すごく頑丈に作られているのだろう。うん、あのノートパソコンは間違いなく目本製だな!だって目本製のモノは西暦3000年までもつらしいからな!まぁ実際はわからんが。
「ほーれ、これがあのお菓子な死神さんが言う”リー・ヨークの定理”だよぉ。」
一瞬何かお菓子を口にしたくなった剣だったが、それはさておき、剣と死神はノートパソコンの画面を覗いた。
ノートパソコンの画面には、『カオス理論』という分野についての研究が書かれてあるページが表示されていた。まだ義務教育を終えてない剣にはチンプンカンプンすぎて全くもって理解できなかったが、虹空が指の差した所を見て見ると、確かにそこには『リー・ヨークの定理』と書かれていた。
「ざっくり言うと・・・・任意の自然数kについて、k回周期点を持つ軌道をカオスと呼ぼうよって言うお話になるのかな・・・・まぁまだ他にも色々と条件があったりするからそんな単純な話じゃないけど。」
虹空の言っていることが理解できなかった剣だが、何はともあれ『リ・ユークの定理』は無さそうだという事実はわかった。
剣は恐る恐る、死神の方を向いた。・・・・死神は明らかにテンパっている様子だった。髑髏である身体のはずなのに、戸惑いの汗をたくさん流している。ああ、こりゃあ、嘘(ダウト)だわ。
「そ、そーだったぁ!オレさまの名前は『リー・ヨーク』だったぜ!いやぁ、生前は『リー・ヨークさまステキ〜☆』とか言われちゃっててさぁー!」
死神は焦ってすぐさま訂正し、自分自身を庇っていた。苦し紛れに思いついた策なのだろう。さっきまで堂々としていたのが一転し、半ば挙動不審(テンパりモード)になっている死神の姿を、剣は見苦しく感じた。
そんな死神の必死のフォローも虹空は容赦無く打ち砕く。
「リー・ヨークの定理はリーさんとヨークさんが提唱したことから『リー・ヨーク』となった訳であって、決して”リー・ヨーク”という人物が考えたものではありませんよ。」
死神は、思わず「ぐっ・・・・」と言葉を漏らした。
「そ・・・・そうだった!オレさまはリー・ヨークのヨークの方だった!!!いやぁ〜昔はヨークさまステキだなんて言われてて」
「さっきまでリー・ヨークという人物が居ると思い込んでたあなたが言っても信憑性が皆無なんですが。」
「・・・・ああ!ハタ・ヨークだ!そうだ!オレさまの本当の名前はハタ・ヨークだったぜ!!!」
「もう何でもありですか。あとハタ・ヨークはまだ存命中の人物なんですが。・・・・芸能界的には半ば死んだような状態ですが。」
どさくさに紛れて失礼なことを言うんじゃないよ虹空君。それはさておき、何度も打開策を練ったところで、虹空がそれらをすぐに突っ返してしまうので、死神はもう何も為す術がなかった。死神は、やや涙目だった。
すると、ずっと抑えていた感情を抑えきれなくなったのか、或いは長年蓋をしていたのだけれどもついに堪えることができなくなってしまったのか、まぁどっちでもいいんだけど、死神はついに白状した。
「だってよォ・・・!!!生前の名前が『ほもたろう』なんて名前イヤに決まってんだろうがよォ!!!!友達がたまたま考えついた名前を名乗って何が悪いんだよォ!!!!リ・ユークだかリー・ヨークだかわかんねェけどそっちの方がかっこいいだろうがよォ!!!!!」
虹空は聞き洩らさなかった。あの単語が出てきたことを。
「えっ、さっき『ほもたろう』って言わなかった?」
死神は、「うわっ・・・・やらかした!!!!」とでも言いたげな顔をしていた。ああ、そうか。僕は心に思っていたことが、彼のように顔にも出てしまっていたのか。彼のような惨めな目に遭わないためにも、今度からポーカーフェイスの修行をすることにしよう・・・・剣は、そう心に決めたのだった。
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