新卒で証券会社に入社して1年間で100件以上の新規開拓を達成し、3億円の資金を導入した話(13)
課長との同行訪問
課長は平成元年のバブルの時に入社した方で、営業畑で生きてきた人間である。
20年以上もの間、ずっと証券営業をしてきたのだ。
いわば、証券営業のプロフェッショナルである。
そんな課長と一緒に営業をするのだ。
普通に考えれば、百人力である。
普通に考えれば。
しかし、僕は課長に対して何の期待もしていない。
いつも部下を怒鳴りつけるばかりでろくに営業に出掛けない。
10分に一回は煙草に火をつけて貧乏ゆすりをずっとしている。
言いなり客を見つけるのが営業の極意。
営業の存在意義は「客に高く売りつけるため」であり、「お客さまのため」という考えはない。
ずっと証券業界にいたからそうなったのか、もともとそういう性格だったのかは知らないが、僕の営業に対する考え方とは相いれないのだ。
そう、20年以上前の営業への価値観をずっと引きずっているのだ。
昔は、証券マンがいなければ株式は買えなかっただろうし、経済情報や知識をつけることができなかった時代なのかもしれない。
そして、どこの証券会社も同じ株式や金融商品を扱っていているので、ごり押しさえすれば買ってもらえたのかもしれない。
だが、時代が違うのだ。
株式はインターネットならば数百円~数千円の手数料を払えば大概手に入る。
投資信託だって、無料で買えるものもある。
よもや、海外の一流ファンドに直接個人が投資できる時代でもあるのだ。
それをわざわざ、手数料を数十倍払って、日本でどこでも買える金融商品を購入するのだ。
相当な信頼関係がないといけないし、人生のパートナーとなる覚悟も必要だろう。
僕は、正直、課長との同行は反対だったのだが、上司の命令は絶対である。
同行訪問を余儀なくされたのだ。
場所は伊勢崎市だった。
自動車の部品を作っている工場の経営者である。
年齢は50代といったところだろうか。
○○証券です!
お待ちしておりました。
アメリカのシェール革命はご存知ですか?
今、実はアメリカのエネルギー業界が注目されてまして、○○○は新しくこの投資信託を販売しております。
▼▼▼という企業にも投資をしており、予想では株価は◆◆%の上昇が見込まれています。
4Pにも書かれています通り、~~~~
最悪だ。
最悪。
予想してた通りだ。
僕らは新商品を確かに売らなければならない。
だけど、あくまでもこっちの都合だ。
この社長は僕らにセールスを受けるために時間を作ってくれたわけではない。
あくまでも、自分の持っている投資信託の中身が知りたくて、それを見てもらうために僕らを呼んだのだ。
課長にはきちんと伝えたのだが、そんなことはお構いなしに自分の言いたいことだけをしゃべってしまっている。
しかも、パンフレットを読み上げているだけじゃないか。
なので、この新商品は素晴らしい投資信託です。
今が買い時であります。
いかがでしょうか?
まあ、よくわかんけど、いいんじゃないかなー。
今持ってるものよりもいいんかなー。
みせてもらいましょうか?
ハガキが数十枚ある。
合計で8つほどの種類の投資信託があるだろうか。
これはかなり古い投資信託ですねー。
今は、投資環境が違いますから、新しいものに変えたほうが良いですねー。
買った銀行に言えば、解約はすぐできますよ。
え、
それだけ?
「どうしてこの投資信託を買ったんですか?」とか、「どうして地方銀行で買ったのか?」とかいろいろ聞くことあるでしょ!
儲かってるんですかね?
なんかこのハガキで毎月分配金?は振り込まれてるみたいなんですが、元本?は大きく減ってるみたいで。
なんか分配金も昔より減ってるのかな?
地銀に聞けないわけでもあるから、僕らを呼んだんだろうに。
こうなったら、僕も発言しよう。
その地銀さんに聞けない理由があるんですか?
そんなすぐには教えてくれないか。
成績も悪くて、ちょっと抜けてるんですわ。
すみません笑
まあ、仲良くしてやってください
なんて紹介の仕方だ。
そんな紹介の仕方をして何になるんだ。
自分はすごいとでも思わせたいのか?
ただ、不機嫌な顔もしたくないので、にっこり笑った。
このページを見てください。
これから為替も円安方向に進み~~~○○○で、▼▼なのが、~~~
終わった。
またセールスを始めた。
せっかくの税理士からの紹介が水の泡だ。
あとで、紹介してくれた税理士には謝らないと。。。
僕は泣けてきた。
そんな調子で、初めての同行訪問が終わった。
続く
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