アリゾナの空は青かった【10】Tom Waits と ワルツリング・マチルダ

前話: アリゾナの空は青かった【9】アリゾナ・ノスタルジア

前回のアリゾナ、ツーソン留学記で、アメリカの歌手、トム・ウエイツに因んで、もうひと話。

ポルトで高校教師を退職した友人であり、日本語学習の生徒でもあるマリアさんが、時折、自分が手がけたアマチュア劇団の脚色の話をしてくることがある。先日も話の弾みで日本語授業そっちのけで、30分ほど話が盛り上がったのだが、

「それでね、その場面にTom Waitsの歌を使ったのよ。」との彼女の言に、
「ま、待てぃ!トム・ウエイツってあのトム・ウエイツ?」

トム・ウエイツにあのもこのもないのだが、わたしがこれまでこのアメリカの歌手の名を引きあいに出しても、一人として反応してくる人に出会った験しがなかったのである。そして、では、と、彼の歌を紹介すれば、決まって聞かされるのが、「なんだ、この声?」という感想をである。若いときからトムの声は酒とタバコで潰れたシャガれ声で、近年は歌うというより、語りと言った方が適していよう。

しかし、1970年代も終わりに渡米して、たった半年ではあるがアリゾナにいたわたしにとって、トム・ウエイツはノスタルジックでたまらない。目を閉じれば、ツーソンNorth2nd Avenue 927番地のドアの向こう、裏庭に面し、遅い午後の光を取り込んだ空間の一隅で、くわえタバコにアンダーウッドタイプライターでパチパチ原稿を打っているハウスメイト、ジョンのシルエットが浮かび上がってくる。

「ワルツィング・マチルダ(Tom Trauberts Blues)」と「ニューオリンズに帰りてぇな」(Iwish I wasin New Orleans)」は、トムのシャガれた声が却ってジンと染みていいのである。(↓わたしの持つ1976年版Small Change LPジャケット裏のTom Waits)

tom waits

♪疲れちまってよ。
 月のせいじゃねぇんだ、身からでたサビってことよ。
また明日な。おい、フランク、2、3ドルばかり貸してくんないか?(筆者勝手訳)
―そして下のように歌詞が続くー
 To go waltzing Matilda,waltzing Matilda,
 You´ll go a waltzing Mailda with me. 

今日は英語で書かれてあるWaltzing Matildaの解釈なのです。

このワルツィング・マチルダがどうも意味がつながらなくて、長い間気になってきたのだ。「2、3ドルばかり貸してくんないか?マチルダとワルツを踊りにいくのによ」と、考えてみたのだが、それだと意味が釈然としない。マリアさんと話すことで、久しく忘れていた疑問を思い出したのである。

トム・ウエイツが編曲して引用しているワルツィング・マチルダは、今はどうか知らないが、わたしが若い頃はよく耳にした歌で、オーストラリアの第二の国歌とも言われる。渡米の資金調達のために、わたしは、昔バイトで大阪梅新のアサヒ・ビアハウスの歌姫をしていたことがあるのだが、よくこの歌をリクエストしたのが日本人の奥さんを持つオーストラリア人のマーチンさんだった。時にはステージに彼やアメリカ人の友人ブルースを呼び出して一緒に歌ったりもした。

アサヒ・martimgreen

Once a jolly swagman camped by a billabong  
  昔、陽気な放浪者が池の側にキャンプをはった
 Under the shade of a Coolibah tree       
  ユーカリの木の下で、
 And he sang as he watched and waited till his billyboiled
  ブリキ缶の湯沸しが煮え立つのを待ちながら歌ったとさ
 You'll come a waltzing Matilda with me     
俺と一緒に来ないか、ワルツィング・マチルダ・・(意味不明なのである)


色色調べてみたところ、「a waltzing Matilda」とはswag(山の放浪者が携帯する今で言う寝袋?)を背負いながら放浪すること、と見つけたり!
Matildaは、紀元前300年頃からエルバ川北方に移住し始めた民族(主にドイツ人を指す)の逞しい女性の代名詞。同時に、移動するワンダーラー(Swagies)達に同行し夜は侘しい彼らを暖める女、妻の意味もあることから、放浪者が携帯する毛布、寝袋等の荷物をMatildaと呼ぶに至ったらしい。

オーストラリアの「Matilda」の意味は分かったが、それでもトム・ウエイツの「2、3ドルばかり貸してくんないか?Togo waltzingMatilda=旅に出るのによ」では、まだしっくり来ない。昔のこととは言え、2、3ドルばかりでは、いかな時代が1970年代としても、旅をするには無理がある。となれば、これは、「ぶらぶらする」という意味にならないか。

Wasted and wounded, it ain't what themoon did
 疲れちまってよ。月のせいじゃねぇんだ
 Got what I paid for now
 身からでたサビってことよ
 See ya tomorrow, hey Frank can I borrow a couple of bucksfrom you?
 また明日な。おい、フランク、2、3ドルばかり貸してくんないか?
 To go waltzing Matilda, waltzing Matilda
 もうちょっとぶらつくのによ
 You'll go a waltzing Matilda with me
 お前も俺といっしょに ブラブラするか?

うむ、これだと意味をなすではないか、と我ながら納得着いた気がしているのだが。

そう言えば、渡米前までわたしが勤めていたオフィスの本社社員のアメリカ人、ボブ君が、「この歌は英語を話す僕らもなんだか意味がよく分からない不思議な歌なんだ。」と言っていたのを思い出した。

ねぇ、トム。あんたの歌ってあんたの心の中のように、分からないのかね?と思わずトムの口調で呟いてしまうわたしでありました。

ちなみにワルツィング・マチルダは、日本のテレビドラマ「不毛地帯」のエンディングに流されていたと聞く。一編聴いてみてもいいかなと思われる方は、下記でどぞ。

https://www.youtube.com/watch?v=hW2vyytxCGM

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。