自殺企図から始まる うつ病 との出会い6
精神科、心療内科を専門とするOクリニックは、
私の予想よりも多くの患者でごった返していた。
通常の内科と変わらないその待合室には、息をひそめるように
15人ほどの患者がソファに腰掛け、診察の順番を今か今かと待っていた。
私がもらった順番札は35番。それだけ多くの人が診察に訪れていたのだった。
紹介状を受け取っていた私もソファに腰掛け順番を待つ。
受付の際に手渡された初診用の紙に、身長や体重、熱の有無、既往症、今回の来院理由などを書く。
来院理由には、「無意識に首吊りをしてしまい、紐がきれて失敗しました」と書いた。
私自身この時には、なぜ自殺のような行為に及んでしまったかがあいまいになっていたが、
この一文がすべてだった。
先ほどのNクリニックの受付の方とは異なり、
私のような一時、緊急的な対応が必要な患者にも対応は慣れているようだったが
タートルネックをめくり首の痕を見せると少し驚いたようだった。
看護師の方の一人が診察室のほうへ走った。
待っている患者の方たちも空気の違いを察したのか私のほうをちらちらと見る。
首の痕がどうなっているか気にしながらしばらく待つと、「35番の方」と呼ばれ、診察室へ入った。
診察室は私がイメージする診察室の作りとは全く異なっていた。
8畳程の部屋にはまるで大学教授や、市長室にあるような大きな机がどんと1つおかれていた。
医療器具や、レントゲンやベッドなどは一切ない。
医者と机をはさんで椅子に座る空間だった。
眼鏡をかけた白髪のO医師は、先ほど内科で書いてもらった紹介状に目を落としながら、
今日はどうしましたか。
と優しい口調で声をかけてきた。
先ほどの内科で診療を受けたとき同様、
⁻首を吊ってしまったこと、そして紐が切れて失敗したこと。
⁻内科で見てもらい四肢や感覚には異常がないようだということ。
⁻首吊りしたときの記憶があいまいなこと。
を淡々と話した。
O医師は私の症状を聞くとすぐに強い口調でこう言った。
あなた以外のどれだけの人が悲しむと思う?考えてみなさい。
あなたは
おそらく、うつ状態、もしくはうつ病だ。
うつ病の人にはがんばれと言ってはいけないというが、それは違う。
死なないために生きることを頑張らなければならないんですよ。
診断は うつ状態 だった。
そして、すぐに休職をするよう、そして家族を頼るよう、薬を服用するように指示を受ける。
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