アラフィフからのリターンマッチ 第二回

前話: アラフィフからのリターンマッチ

「俺は、俺は」


大学時代からもてなかった夫は、結婚生活でとても幸せそうだった。

高校でも生徒に冷やかされ、共働き片道一時間半の通勤をしている妻の弁当を毎日持参し、誰でもが認める「幸せ太り」状態になった。

一方私は、長い通勤時間、家事、業界の仕事といろいろなことが重なり、二度の胃潰瘍をわずらった。

胃が絞られた雑巾のように痛む毎日。

有給がなくなるから、無理して出勤したある日、通勤電車の中で脂汗をかいて倒れてしまった。

結局出勤できず、都内のかかりつけの病院に立寄り、帰宅して寝ていた。

すると、夕方帰宅した夫は、

「俺も十二指腸潰瘍やったからわかるけど、痛いよな。俺はもっと大変だった。と。

布団から出るのも精一杯の私より大変だったって、そりゃ凄かったんですね。


そういえば、週末二人で食料品の買い出しに行くと、レジの前からすっといなくなる。

当時、地方公務員である教員の稼ぎは悪くなかった。しかも、教員の官舎に住んでいたので、住居費は市場の十分の一。

なのになぜ、支払いは大半が私なの?


結局、結婚してから、半年後に私は退職し、胃潰瘍の治療に専念することになった。

収入は失業保険だけになった。

しかし、一緒に買い出しに行くと、変わらず彼はレジの前からいなくなる。

「あの、私は今、貯金と失業保険で食費出しているの。尽きたら、ごはんが食べられなくなっちゃう。どうすればいいの?」

「仕方ないだろ、俺はな、銀行じゃないんだよ。いつも大金財布に入れて歩いているわけじゃないんだ。」

まさか、この「俺は銀行じゃないんだ。」の言葉が、22年続くとはこの時思いも寄らなかった。


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