金融バブルの星屑 その1 バブルの足音

次話: 金融バブルの星屑 その2 バブルの頃

1987年10月19日、アメリカで起こったブラックマンデー。皮肉な事に海を渡った日本では株価の下落はあったものの不動産・絵画にお金が流れ込むバブルが頭を持ち上げ始めていた。息を潜めて膨らみ始めたバブル。それは恰も宇宙の超新星の爆発の様に多くの物を吹き飛ばしてしまった。その吹き飛ばされた人々の話。

大学を卒業したのは1983年。

円高不況の渦中であり私大トップ校の看板学部にあってもゼミ生20名の内数名はさっさと就職を諦めて大学院進学を決めていた。

親のコネがあったり、とてつもなく優秀な連中は上位都市銀行への就職を結構決めていたが、採用枠が絞られているためにそうでないものは幾つか都市銀行中位・下位等の中堅企業より内定を貰ってはいたが希望に合わないと挑戦を続けていた。

自身もゼミのOBから財閥系の損保、生保への誘いを受けていたが、どちらも転勤が多くの代理店や生保のおばちゃんの相手をするのかと思うと乗り気になれなかった。

それでも今でも新宿にある三角ビルの高層階にある生保の説明会に出席したが、眼下を見ると車が豆粒位にしか見えない。

グループ討議の様な事を10名位でやって、その内何人かが一人づつ別室に呼ばれた。

「国際的な仕事をしたいと思って商社を中心に回っています。生保は正直入社した後でどんな仕事をするのかとイメージしづらく。外債の売買とかやっているんですよね?」

大学の先輩であろうリクルターの社員、「あっ!外債とか興味あるんだ? だったらうち入ったらディーリング部門に配属になるように話をしてあげるよ。」

「転勤が多いのが・・・」と、こぼしていたのも効いていたようだ。

調子に乗って、「このビル相当高いですけど。地震とか火事の時どうやって脱出するんですか?」

と、とても面接に来ているとは思えないような質問も発していた。

もっともあれから30年以上経ってもビルはピンピンとしているので余計な心配だったことになるが。


本命の大手商社は旧帝大、旧商大を中心にに全国の国公立大学、また私大でも広範に採用をする為、この年の採用枠が絞られていることもあって、早々と採用者が決まってしまっていた。

専門商社も回ったがやはりスケールが違う。メーカーの物流部門という性格が大きかった。


そんな中で「国際性」繋がりで東証一部上場の財閥系の海運会社に入社するとこにした。

社員数、陸上社員という営業や事務を行う社員と海上社員、平たく言うと船員、合わせて500名。

その内、八重洲のブリジストン美術館の向かいにあった本社にいる社員数は100名程度。小ぶりな会社だった。新入社員は男子7名(早稲田政経2、早稲田法1、慶応法・商各1、法政1、筑波院1)、女子13名。規模の割りに人数が多かったのは景気が悪く大手が採用を絞った為、良い人材が集まったからとのこと。男子中3名は何らかの「コネ」有り。

一部上場と言っても一般の人で名前を知っている人はまずいない。

人に話す時も、「XXXXXX と言う会社に勤めています。」言わなければならない。

聞かれもしないのに、「株主は XX金属、XX化学、XX商事、XX銀行」と、財閥系を強調する。


もっともそうして入った海運業であったが、その後のプラザ合意による円高の進行により戦後、政府主導で作られた6中核体体制(日本郵便、商船三井、川崎汽船、山下新日本汽船、ジャパンライン、昭和海運)がもち耐えきれなくなり、山下新日本汽船とジャパンラインは定期船部門と不定期船部門に分離、定期船分野が日本ライナーシステム、不定期船分野がナビックスラインへ統合。

結局、これも長続きせず日本ライナーシステムズは日本郵船と統合、ナビックスは商船三井と統合。

更に、昭和海運は日本郵船に合併されて郵船、商船三井、川崎汽船の大手3社体制となった。半分である。

この様な劇的な状況ではあったが一般の方からすると驚くであろう事は業界が小さい事もあって、合併された会社の従業員であっても能力がある者は重用されたこと。

「日本海運」一家という意識が強かった査証でもある。

勤めていた会社でもリストラは避けられず500名の社員を200名弱へ。

船一隻当たりの年間船員費が日本人だと5億円。フィリピン人だと5千万円。

10倍の開きでは日本人船員は優秀といくら言っても経済合理性で負ける。

かつて最強を誇った全日本海員組合の組合員数も3万人を超えていたのが、あっという間に1万人を切っていた。


この様に海運業を取り巻く環境は厳しかったが、陸では違う風が吹き始めていた。

「バブル」である。







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