南の島のたばこと、女の子にもらったワンピース

著者: 滝本 悠

香川のおうどん屋さんは、毎朝起きると必ず外に出て

空気をお腹いっぱい吸い込むらしい。

その日の気温や湿度を把握して、うどんに混ぜる水分や味を微妙に調整するためだ。


1年くらい前、南の島に2ヶ月くらい住んでいたことがあるのだが、寝る前に必ず外へ出ていた。タバコを吸うためだ。


向こうの人はすぐに「もらいタバコ」をする。

僕がタバコを吸っていると通りがかりに、

「あ!君の顔を見て思い出したことがあるんだけど...」という様子でタバコをねだってくる。

僕はいつも「ごめんね、これが最後の一本なんだよ」と断っていた。


1人目は東南アジア系の女性

あなたタバコ持ってない?と聞かれて、

持ってるよ、と取り出すと電光石火でかすめ取っていった。


2人目は日本人の30代半ばくらいの女性

今回の旅は"ブロークンハートトリップ"だと言っていて、この島にはいろんな人がいるなあと感じた。


3人目は彼氏と別れてから20秒後の、ヨーロッパ系の女性

向こうの通りから叫び声がするな、と覗いたら

"Fワード"を叫びながら、ローリングソバットをかけてる綺麗な女性が見えた。

タイガーマスクがやってた、空中回し蹴り。


そのあまりの状況に、

こちらの方に歩いてくるその彼女に「どうしたの?」と声をかけずにはいられなかった。


英語でどうしたの?と声をかけたのに、何語かわからない言葉でせきを切るように話しはじめたから、僕は「うん、うん」と日本語で返して、タバコを一本あげた。

言ってることはわからないけど、伝えたいメッセージはまあだいたいわかる。

タバコを一本吸う時間はだいたい5分間。喜怒哀楽の全てとそれ以外のよく分からない感情も詰まった5分間だった。



タバコを一本吸って落ち着くと、彼女は背負っていた小さな赤い革製のポーチを僕に「あげる!」と差し出してきた。うん、ありがとう!じゃあね。

あとで中をあらためてみると、40セントと女性もののワンピース。

僕には完全に要らないプレゼントだったが、その時の彼女にとってはもっと要らないものであったに違いない。


南の島のたばこと、女の子にもらったワンピース

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