今日の晩飯もスライムか: 魔法使い養成塾の立ち上げ方 その2
(その1の続き・・・)
目を軽く閉じ、呪文を大きな声で唱えた。
本当は頭の中で唱える程度でいいのだが、ビジネスというものはアピールも重要だ。
そして目をカッと見開きアニマルゾンビを見据えた。
本当はあまり目に力を入れないほうがいいのだが、これも当然アピールの1つだ。
その方が魔法っぽい。
『メラ!!』
そう叫ぶと同時に、人差し指を敵に向ける。
指先から真っ赤に燃え盛った火の玉がまっすぐに飛んだ。
アニマルゾンビは避ける間もなく一瞬で火だるまになった。
『ギャー!』
モンスターといえども苦しむ姿は見てられない。
普段は目を背けるのだが演出も重要だ。
命に感謝するように、哀れみの眼差しを火だるまに向けた。
『いやぁ!凄いっす!』
ダーマが興奮気味に話しかけてきた。
『あれがメラですか?』
『まぁそうですね。』
『いやぁ凄い!簡単に出せるんですか?』
『まぁ簡単ですよ。ちょっと練習すれば。』
『だいたいどのくらいで出来るようになるんですか?』
『人によりますけどね。普通はだいたい3週間あれば。』
『3週間!意外とすぐなんですね。魔法使い養成塾、やりましょうよ!』
『ええ、宜しくお願いします。』
我々はガッチリと握手をした。
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・・・思えばあれがピークだった。
いやオレが悪いのだ。
相手が「自分は経営の経験がある」と言っただけでそれを信じてしまったのだから。
ダーマの仕事っぷりは酷いものだった。
とにかくすべてが雑で本当に経験があるのか信じられなかった。
たとえば看板。
それなりに雰囲気が出ていないと怪しいと思われてしまうため、しっかりとした看板職人に依頼しようといいだした。
確かにその通りだ。しかし金がない。
『知り合いの看板屋に依頼しますので、安くなりますよ』
と言っておきながら、気が付くと近くにある普通の看板屋に依頼していた。
知り合いの話はどうなったのかとは聞けずそのままだったのだが、似たようなことが頻発していた。
『知り合いに言えば安い』
結局その知り合いとやらに依頼することはなかった。
知り合いなど本当にいるのか?
疑いが強くなったが、オープンの日は近い。
とにかく目の前にある作業を1つ1つ片付けなければ・・・。
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オープン当日。
前の日はなかなか寝付けなかった。
金が底をつき、野宿が続いていたことはもちろんだが、新しいことにチャレンジしているという高揚感が理由だった。
時間になった。
『チラシはどのあたりに撒いたんですか?』
何気ない質問を、外を見ながらゆっくりとコーヒーを飲んでいるダーマに投げかけた。
『いや、チラシは撒いてないっす。金がないから。』
『え?じゃあ告知はどうやったんですか?』
『3日くらい前から、外に看板を建てたんですよ。見なかったですか?』
『いや、それは知ってます。
8月8日オープンと書かれたやつですよね?・・・告知ってアレだけですか?』
『まぁそうですね。金がないし・・・。』
頭に血が登ってくるのが体感できた。首から上だけが熱い。
『いや、ここって人が全然通らない場所ですよね?
そのオープンを知らせる看板なんて誰も見ていないでしょう?』
『まぁでもオレの知り合いが、声をかけてくれるっていってたんで。』
『知り合いって誰ですか?』
『昔からの仲間で、いま宿屋をやってるんですよ。』
『じゃあその宿屋さんにチラシを置いてもらってるんですよね?』
『チラシはないですって。金がないんだから。』
話にならない。とにかく会話を打ち切りドアが開くのを待った。
オープン初日だ。もしかしたら話題が話題を呼び、生徒が押しかけるかもしれない。
しかしそれは淡い期待に終わった。
ゼロ。
それがオープン初日の来客数だった。
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