バーボンストリートでバーボンも飲まず (1)

次話: バーボンストリートでバーボンも飲まず (2)

あれはもう30年程前の事、アメリカのシアトルに7ヶ月長期出張で滞在した後の帰り道。本社からは慰労としてハワイにでも寄って帰って来ても良いと言われたが、仕事に関わりのあったメキシコ湾岸のヒューストンと、ここニューオリンズを選んだ。

ニューオリンズでは駐在員が忙しかったので現地の代理店のアメリカ人が世話を焼いてくれた。

穀物を輸出するグレイン・エレベーターを見学したり、ミシシッピー川の港を見学したり。

約束の夕食の時間までは一人でスーパードームまで行って写真を撮ったり。

夕食は現地の名物「ケイジアン料理」。

ガンボスープなどを食していると、何か白身のお肉が出てくる。

「これが何だか分かるか?」

ちょっと見はチキン。でも何でこんなに小さく刻んでいるのだろう。

食べてみるとチキンだとすると胸肉。割とパサパサしている。

「チキン?」

「いやいや、もっと大きくて。恐ろし奴さ。

この辺りでも一年に数人行方不明になるのが、こいつらのせいだと言われているんだ。」

⁉️

「それは鳥?」

「いやいや。水の中にいるんだ。」

「では魚?」

「いや、四つ足だ。おまけに口がガバッと大きくて力が凄く強いんだ。」

まさか‼️

「そいつの革って値段が高い?」

「そうだな。」

という事で盛り上がった会話の挙句、それが「ワニ」と判明したのだが、彼が期待した程の驚きは無かった。だって味はチキン!


食事の後ホテルにおくってもらったが、それで寝るほどヤワじゃない。

当時は、まだ二十代。

有名なジャズの聖地、バーボンストリートに寄らずに日本に帰れない。

早速、ワンブロック離れたバーボンストリートへ。

何故だか周りにはアンティークショップが一杯。

しかし一歩その通りに足を踏み入れると喧騒なジャズのミュージックとイカガワシイ妖艶な光。

そうこの通りはジャズのだけでなくストリップでも有名だった。

微妙に中が見えるか見えないかの具合で通行人を中へと誘う。見えるか見えないかのシーンを見るために通りを行ったり来たりする。

「おっと、今日の目的はジャズ。」

「地球の歩きかた」で見つけておいたジャズクラブへと向かう。

幸運にもステージの真下の席を確保。いわゆる「かぶりつき」。

バーボンをすすりながら音楽に酔いしれる。

ミュージシャンは皆な黒人で結構ベテラン揃い。

ベースの腹から響く音とトランペットの甲高い音のコンビネーションが心地よい。

いつの間にか体が曲と共にスウィングしている。

もうすっかり夜中。と言うか朝が近い。

明日の朝は帰国の為の車の迎えが6時前にくる約束。

すっかり良い気分で、千鳥足でホテルに着いたのはもう午前3時を回っていた、と思う。

兎に角ベットに潜り込んだ。


突然鳴り響く電話。

(どうしたって言うんだ?)

取り敢えず無視。

再び鳴り響く電話。

仕方なしに受話器を取る。

「頼まれた運転手だけど、もうとっくに着いてる。

早く降りてこないと飛行機に乗り遅れるぞ。」

「分かったから暫く待ってくれ。」

そう言ってまたベットに倒れこんだ。

暫くして再び鳴り響く電話。

「どうしたんだ?何時になったら降りてくるんだ。

本当に飛行機が行ってしまうぞ。」

(そうだった。今日は待ちに待った。7ヶ月ぶりの日本への帰国の日だった。)

やばー!

まだかなり酔っ払った頭でスーツケースに物を放り込み、服を着替えてチェックアウト。

呆れた顔の運転手に、

「ソーリー、ソーリー。昨晩、バーボンストリートでジャズ聞きながら飲み過ぎたんだ。」

と釈明。

荷物を積み込み空港へ疾走。真っ直ぐに伸びるハイウェイ。

と、突然、運転手が空を見上げながら叫んだ。

「ほら。お前の乗るはずだった飛行機が今飛んで行った。」



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