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16/7/3

【第1話】会社なんて辞めてやるよ。

Image by Olia Gozha

「仕事舐めてんのか!?」

課長の叱責が会社に響く。



またつまらないミスで怒鳴られた俺は課長の怒りが収まるまで謝り、自分の席に戻った。

猪八戒似でデブの主任がこっちを見てニヤニヤしている。

僕はある中小企業で働く、しがない社畜だ。

毎朝、満員電車に揺られ会社に出社し、休憩もなく夜は終電ギリギリまで仕事をしている。

そんな生活をもう2週間もしている。缶コーヒーでかろうじてつないていた僕の集中力もとっくに切れていた。

そのままパソコンの前で仕事を続けていた。ふと時計を見ると時間は12時近くなっていた。



まだ仕事は残っているが、このままだと終電に間に合わない。今日こそは...今日こそは家で寝たい。

俺はパソコンを閉じ、急いでコートを羽織って会社を出た。

「「うっ...僕はなんでこんな苦しいことしてるんだろう...?」」


蒸し暑い夜道を歩きながらそう思った。だいたい世の中フェアじゃない。

きっと世の中には、かき氷にロマネコンティぶっかけて、「デリシャス!」

なんて涼んでいる奴もいるに違いない。どうして俺はこんな遅くまで、好きでもないオッサン達に囲まれて仕事してるんだろう。そう思うと悲しくなった。

ただ変えられないことを悔やんでいても仕方ない。気分を変えようと、歩きながらスマホを取り出す。

「今年の夏は旅行でもいこうかな...」

そんなことを思いながらスマホを片手に旅行のページをスクロールしてたら、SNSのバナーに美しいペンションの画像が現れた。

「今年の夏は新潟でステキな思い出を作りませんか?」

キャッチコピーが目に留まった。クリックするとHPに飛ばされた。

そこには見たこともない雄大な大自然の画像や、豪華な和食料理、美しい景色が一望できる露店風呂の写真など、目を奪われる画像が次々に現れた。



「こんな場所に泊まれたらなぁ」

とため息をついた。

そんな思いを感じながら、宿泊の料金表を見てみる。

さすが豪華なペンションだけあって値段も超一流。

安月給で働く俺には到底泊まれそうもない。

「少し現実逃避できたし、まぁよしとしよう。」

そう思いながらページを一番下までスクロールをした。

「アルバイトスタッフ募集中!スタッフはペンションに無料で泊まれます。」



自分の目を疑った。マジで!?あの豪華なペンションにタダで泊まれるの!?

詳細を読もうとした次の瞬間、いきなり画面が着信画面に変わった。

「前田君!君仕事終わってないのに家に帰るってどういうこと!?」


猪八戒似のブタ主任がいきなり罵声を浴びせてきた。こいつはいつも休日だろうが、おかまいなしに電話をかけてくる。俺にはプライベートの時間なんてないんだと言わんばかりに。

でも俺の心は別の世界にいた。

あの素晴らしいペンションで優雅に温泉に入って寛いでいる。上手い料理を食べて、余った時間は自然を大満喫するんだ。

だから豚の鳴き声は別次元の世界にいる俺の耳には届かない。悪いけど人間の言葉で喋ってくんないかな。

一通り喋り終わった猪八戒に、俺は静かにこう告げた。


「「俺、会社辞めます。」」


大声で何か怒鳴っていたが、ブタ語だったため理解できなかった。

ブチッと携帯のスイッチを切る。

夜道が妙に清々しい。俺はネクタイ放り投げると、終電の電車に猛ダッシュで走っていった。

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