【第2話】いざ新潟へ!夏の始まり
俺は新潟行きのバスの座席でお気に入りのZARDの歌を聞きながら、色々なことを思い出していた。ボサボサに伸びきった髪と髭は短く整えた。
会社を辞めると主任に告げた次の日、当然だが課長を始め、同部署の上司方からずいぶんと大目玉をくらった。ただ俺はひたすら平謝りを続けた。
大方、俺が会社を辞めることを止めようとしなかった。別に俺がいなくても支障はないといわんばかりだ。
しかし、俺に仕事を教えてくれ、プライベートでも食事に行ったり、交流があった佐藤先輩は俺が辞めることをずいぶん悲しんでいた。
たまには飯でも食いにいこうな、また連絡するからな。と言ってくれた。
少し名残惜しい気もしたが会社を辞るという選択は変わらなかった。
ただ辞めると告げた後も1か月働いた。とりあえず筋は通したかった。
俺が辞める1週間前、俺の後釜に新人が来た。会社の部署全員で、その新人の歓迎会と、俺の送別会を兼ねて居酒屋で飲み会が行われた。各々、席に座ると主任の猪八戒が号令を取り始める。
「え~、今日は新人君である川谷君の歓迎会です!あ、あと前田君の送別会でもありますが、まあ前田君はオマケみたいな物ですが。それではみなさん楽しみましょう!乾杯!!」
俺は唖然とした。これはさすがに言いすぎだろという雰囲気が場に漂う。
横にいた佐藤先輩は猪八戒をにらみつける。新人の川谷君も、素直に喜んでいいのかわからなそうな表情を受かべていた。
飲み会が終わり、店の外で佐藤先輩が話しかけてきた。
俺はクスッと笑ってしまった。そして佐藤先輩が俺にそっと俺に手を差し出す。
俺はその手をガッチリ掴む。
俺はありがとうございます!と大声で答え、頭を下げた。こういう人と出会えただけでも、俺は報われる。
そうしていると、新人の川谷君も手を差しのばしてきた。俺は動揺してしまい、ぎこちない握手になってしまった。それを見ていた周りのみんなが笑う。
そうすると、なぜか俺を貶すスピーチを飲み会の始めにしてきた、猪八戒まで手を伸ばして来た。
いつもはパワハラばかりするくせに、この汚いブタはおいしい場面には必ず社舎利出てくる。
そんな汚いブタとは握手をせず、その手を思いっきりはたいて落とした。
猪八戒は拍子抜けた顔をした。課長も険しい顔をしていたが、周りのみんなは爆笑した。
みんな酔っていて、よくわかっていなかったんだろう。それとも、ストレスが溜まっていたのかな。みんな猪八戒のことが嫌いなのか。真相はわからない。
そして俺は晴れて、会社を辞めることができた。すごい清々しい気分だった。檻から解放されて本当に自由になった気がした。
そして今、新潟行のバスに乗っている。
例のペンションに電話をかけたら、二つ返事で採用になった。働いているメンバーは学生が中心なので、仕事の経験がある社会人で働いている俺の存在は貴重だということだった。夏限定の仕事だとはっきり言われたが、夏はそれだけ人員が必要ということだった。
どうやら、リゾート地で短期間で働くことをリゾートバイトというらしい。リゾートバイトは旅費や宿泊費が無料になるとのことだった。
一緒の部屋に暮らしていた弟は、一瞬驚いていたが、兄さんらしいなと笑って送りだしてくれた。
とりあえず、周辺整理は思った以上に簡単に済んだ。
仕事では多くのつらいことがあって自分の思い通りにならなかったが、仕事を辞めてからは、スムーズに物事が進んだ。まるで導かれていたようだった。
窓の外に目を向けると、あまり天気が良くない。少し不安になった。恥ずかしながら、俺は新潟に行くにも関わらず、新潟のことについて何にも知らない。
新潟について色々考えているといつのまにか、目を閉じて寝てしまったいた。気が付くと、目的地である小さい停留所にバスが停まっていた。
バスから降りて外にでると、停留所の近くに小さい軽バンが停まっていて、その前に30代後半くらいの背がとても高い男性が立っていた。
軽く頭を下げて、あいさつをする。この人が、ペンションのオーナーの片桐さんだった。とても若くイケメンな人で驚いた。
脈々と流れる新潟の山々にもっと驚愕した。映画の一場面を切り取ったような景色が広がる。
俺は片桐さんとは目もあわさず、美しい山々に見惚れてしまった。
短くて忘れらない夏が始まった。
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