フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第4話
長い長い波乱の人生の入り口に立った私
《これまでのあらすじ》
篠田桃子は普通の大学生活を送っていた。ある日恋人を怒らせ、落ち込んでいた桃子は財布と携帯電話を失くしてしまう。絶望的になった桃子は半ばパニックで風俗店のアルバイトの面接へ行ってしまうほどであった。なんとか落ち着きを取り戻した矢先、拾ってくれた女性がいることが分かり早速会うことに。ところが女性が言うには拾ったのは携帯電話のみで財布はなかったとのこと。さらに話すうちに拾ったのは女性ではなく一緒に来ていた柄の悪い恋人の方だと分かったのだった。
私の両親は私が小学生の頃離婚した。
それまでも諍いが絶えず、母親はよく自嘲気味にこう言ったものだ。
「アタシは男で失敗した」と。
そしてまだ幼い私の肩を掴んで、アンタはママみたいになっちゃダメだからねと言った。
家庭環境の割には、真っ直ぐ普通の子と変わらない人生を生きてきた。
多少の反抗はしたが、グレたりなどせず、テストの前はよく勉強した。
大学は母親の期待通り国立に入った。
でも、それはなるべくして成ったのではなく
私が無理をして努力してきた経過と結果だ。
私は普通でいたかった。例え片親であろうと。
人一倍、普通であることを意識し続けてきたのだ。
なのに…
あの日を境に私の平凡に歩むはずの人生の歯車が狂ってしまったのだ。
私は改めて男を盗み見た。
男は鼻歌を歌いながら携帯電話をいじり続けている。
目が合うと私の本音が見透かされそうだった。
私は疑惑と怒りの念を込めて男を見ていた。
私の忘れ物を拾ったのは女性ではなく、後から来たこの柄の悪い男の方だった。
財布は携帯電話と一緒にあった。それなのに財布はなかったなんて絶対嘘だ。
仕送りの8万円がそのまま入っていた財布だ。
この男が持ち主に正直に返すとは思えない。
でも、そんなことは絶対本人には言えない。
怒らせると何をするか分からない雰囲気を持った男だ。
それにもしかするとコイツの前に他の誰かが財布だけ持ち去ったとも限らない。
ああ、でもどうしよう。
明日からどうすればいいのだ?
意気消沈の私に女性は、励ますような言葉をかけてくれたが、よく耳に入らなかった。
私は立ち上がり、力にない声でトイレへ行ってきますと言った。
そして個室の中でしばらく座って考え込んだが、何も解決法は見つからなかった。
そして、また彼らの席に戻っていった。
彼らは何か熱心に喋っていたが私に気がつくと、女性がニコッと笑った。
赤い唇からこぼれる、キチンと整列した白い歯が美しくてしばらく見惚れた。
「あのさ、考えたんだけどね、うちで働くのってどうかな?」
女性が言った。私はえ?と言って彼女を見た。
「あ、ウチって言っても、うちらの店じゃないんだけど、ま、一応任されてて」
「はあ…」
「アナタさ、水商売したことある?」
「……一応、今、居酒屋でバイトしてますけど」
「そうじゃなくって、お客の横についてお酒注いだり、話し盛り上げたりする仕事」
私は首を横に振った。
「そっか、やっぱりね。アナタ本当に真っ直ぐそうな子だもんねえ」
私は、いえと謙遜した。
男が相変わらず無遠慮な目つきで見てくるのが気になったが、女性の言葉を聞いた。
女性はこの付近でパブを任されているらしい。
ついこの間、キャストの女の子の欠員が1名出たので、よければ手伝ってくれないかと言うのだ。
時給は2500円。慣れればもっと上げてくれるそうだ。
今にバイトの約3倍。しかも日払いしてくれるという。
気がつけば私は彼女の話に真剣に耳を傾けていた。
「やってみるかどうかは今から店に来て決めてくれていいから。んで、アナタ当面のお金ないんでしょう? もし、うちでのアルバイトを決心してくれたら失くしちゃった8万円前借りさせてあげる。どう?悪い話じゃないと思うよ、考えてみて」
女性の名前は中西玲子と言った。年齢は不詳。
オーナーの幾つも所有する店の一つである『パテオ』の女主人だった。
後に入店して分かることだが彼女自身もやり手のオーナーの所有物の一つなのであった。
彼女の恋人らしき柄の悪い男の名前は佐々木昭泰。店の中では黒服の中心的な存在だった。
店は雑居ビルの地下1階にあった。
地下へ続く階段の前で黒服と下着のようなキャミソール姿の女の子が何か話していた。
玲子たちの視線に気づくと、すぐ笑顔であいさつした。
昭泰がドスのきいた声をかけた。
「おい、なんかトラブルかよ。ミホ、どうした?」
まるで自分の女に対するような馴れなれしい呼び方だと思った。
ミホと呼ばれた女の子はチャラそうな子だった。
「同伴、すっぽかされちゃったんでえ〜すう」
「バーカ、その分指名してもらえよ」
「もお、アキさんイジワルう〜」
と言って、ミホはクネクネしながら階段を降りていった。
ドウハン? シメイ?
私には彼女の言っていることがよくわからなかった。
当日、私は本当にこういう世界は未知の領域だったのだ。
まるでオシャレなBARラウンジのようだった。
まだまばらだが客に2人ずつ女の子がついている。
薄暗い店内だが例の風俗店とは違い、オレンジの照明で店全体が見渡せた。
内装はシンプルだが、所々センスの良い装飾があり、落ち着きのあるジャズが流れている。
ただ、結構なボリュームなので話し声は聞こえない。
私の目は、昨夜の風俗店と比較していたせいかこの光景が健全に見えた。
客もスーツを着たおじさんが大半で、スケベ面はどうしようもないが
外面は紳士的で女の子に無理に触る者は1人もいなかった。
中には女の子のタバコの火をつけてやる客までいた。
私たちはラウンジの一角にあるソファに座っていた。
「どう? できそう?」
玲子が言った。
私が答えに困っていると昭泰が口を挟んできた。
「何てことない、オッさんたちの話聞いてやりゃいいだけ。オッさんは若い可愛い女の子が
頷いたり、驚いたりすんのが嬉しくてしょうがないのよ。 ま、寂しい連中への人助けだと割り切れば
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