フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第7話

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夜の闇の世界で

《これまでのあらすじ》初めて読まれる方へ

普通の大学生の桃子は財布を失くしたことで人生が狂い始める。佐々木という男と恋人の玲子というカップルから借金をしたために彼らの任されているショーパブで働くはめに。乗り気ではないもののダンスレッスンとホステスとしての接客に少しずつ慣れていく。そんな中で、玲子の紹介であることについて他のホステスたちから「ヤバイよね」と陰口を言われているのを聞くが、さほど気に留めない桃子であった。



初めて自分を指名した客は田崎という不動産関連の仕事をしている浅黒い中年男だった。自称独身, 趣味はカフェ巡り、休日お気に入りのカフェで読書をするのが1番の楽しみだそうだ。

キャバクラ巡りってキーワードを忘れちゃいないかと突っ込みを入れたかった。

彼のワイシャツの胸ポケットはいつだって色んな店の女の子の名刺で一杯だったからだ。

いい歳して白地のシャツの襟を立てて爽やかを気取っているが、時折だらしなく鼻の下を伸ばして私の胸元を覗いているのは分かっていた。

何はともあれ私のような気の利かない愛想のない女が指名を取れただけでも有り難いことだ。

一度、田崎に何で私を指名したのか聞いたことがある。

すると田崎は

慣れてない感じがいいね!

とありきたりな答えを言った。


帰り更衣室で着替え終わると、出入り口のところで

佐々木が通せんぼするように立ちはだかっていた。

口元だけ皮肉っぽい笑みを浮かべている。

私は気にせず佐々木のすぐ近くまで歩み寄った。

怪訝そうに見据えているであろう私を佐々木が面白そうに眺める。


「杏、指名ついたんだってな。やったな、おい!」


「はい、どうも」


「んだよ〜。お前もっと嬉しそうな顔しろよー」

酒でも飲んでいるのだろうか、いつもよりテンションが高い。

営業中、たまたま視界に入ってくる佐々木はいつ何時も

黒服のボーイたちを小突いたり蹴りを入れたりドヤしていた。

それ以外は甘ったるい声を出してホステス達をからかっていた。

売れっ子のホステスとそうじゃないホステスとの佐々木の態度の差は歴然としていた。

ナンバーワンのミサキさんというホステス機嫌取りや

気持ち悪いほど、お姫様扱いしているのを見るたび辟易とした。

私にこうやって話しかけてくることは入店した日以来だ。

でも私は有難くもないし、むしろ不快だった。

まだこの男への疑念は消えていない。

私の財布をくすねたておきながら、ここで私を働かせたとしたら…


私の内心をよそに佐々木は言葉を続ける。


「でもよお〜、ここで一つお勉強。簡単に客の誘いに応じるなよ」


「は?」


「だから〜、あのキザなおっさんが、例えばよ〜〜早々にお前と外で

デートしたいだの何だの言ってきても、当分ははぐらかしとけ。

うまく話を同伴に持って行けるなら別だけど、お前にまだそんな話術ねえだろうから」


私は、はっとした。

先ほど田崎が帰り際に「今度食事しよう」と言ってきたのだ。


「食事だけでもダメてっことですか?」


すると佐々木は息のかかるくらいまで私に顔を近づけてきた。


「分かってね〜な〜、杏ちゃん」


私は一歩後ずさる。


「客が何でこんな安くもねえこの店に入るか分かるか?」


「お、お酒飲んだり、女の人と話したいからじゃないんですか?」


「それだけじゃねえ。客はな、現実を忘れたふりして、妄想してんだ。

綺麗な姉ちゃんと酒飲んで、言いたいこと喋って気持ちよくなるだろ。

そんで妄想すんだよ。この隣にいる若い綺麗な女は俺のオンナだってな。

そんでうまくいきゃこの女とヤレるってな」


私は自分の考えていた答えを導き出された気分だった。


「でなきゃ誰がこんな店に汗水たらして働いた銭くれてやるかってんだよ」


私は少しうなだれて聞いていた。


「ま、ここに顔出す男ってのは例外なく、み〜んなドスケベ野郎だって思っとけ」


「分かりました」


佐々木が出口の前から少し脇にずれたので私は出て行こうとした。

すると佐々木が私の手を掴んだ。

驚いて佐々木を見ると、ますます面白そうに私を見下ろしている。

そして目の前に5千円札突き付け


「ホラ、タクシー代。使えよ」


「いいです。まだ電車ありますから」


「玲子からだぞ。指名取れた祝い金だと思え」


もらう理由はなかった。

でも、佐々木の強い威圧感に押され、仕方なく受け取った。

佐々木は私の手を放すと、また皮肉っぽく笑い店の中へ消えた。

おい!テメーどこに目えあんだよ!?

と爆音のようなBGMのに紛れて佐々木の怒鳴り声が聞こえてきた。


私は階段を登り、駅へと向かった。


最終電車を降りると

携帯電話が鳴った。

ドキッとした。

拓也からだった。

約束に遅れ怒らせてから2週間以上拓也とは連絡を取っていなかった。


「もしもし」

つい緊張した声になった。


「おう、俺」


「うん」


「お前さ、何で全然電話してこないわけ?」


「え?!だってタッくん怒ってたし」


「普通、悪いと思ったら許されるまで謝り続けるもんでしょ」


途中彼の声が裏返ったように、聞こえた。

佐々木には欠片もない、育ちの良さが伝わってくる声だ。


「…ゴメン」


「まあ、いいや。もう」


「あの…タッくん、私ね」


私は言いかけてハッとした。

私は今何を言おうとしていた?!

財布を失くしショーパブで働いていることを彼に話せるわけない。

彼が日頃からキャバ嬢のようなタイプを見下し嫌っていたのを知っている。


「何だよお」


「ううん、何でもない。とにかくごめんね」


「もお、いいよ。許す」


「ホント?」


「うん、てか思い切り電車の音すンだけど。何でこんな時間に外にいんだよ?」


「あ、あのね。あの、明日提出するとレポートのコピー取りにコンビニまで来てて」


「そんなの明日にすりゃいいじゃん」


何と答えようか迷っていると

タッくん、まだ起きてる?パパが話があるってよ!

という声が受話器越しに聞こえてきた。

拓也は焦った様子で

「んじゃ、また電話するわ」

と言って電話を切った。


シャワーを浴び化粧を落とした。

心なしか顔が軽くなったようにスッとした。

私は机に向かった。

拓也に言ったことは半分は本当だった。

明日はレポートの提出締切日だ。

あくびがいくつもこみ上げてきたが眠い目をこすり私はペンを動かした。

だが、10分もしないうちにそのまま眠りに落ちてしまうのだった。


結局レポートは提出できなかった…

くしくも

この日は私の20歳の誕生日だった。

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