フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第9話
闇に染まる
《これまでのあらすじ》初めて読む方へ
ごく普通の大学生、篠田桃子はあることがきっかけでショーパブでアルバイトすることになる。最初は乗り気ではなかったが、ショーと幼い頃憧れたバレエの舞台とが重なって見えた桃子。少しづつ指名も取れ、いよいよショーに出演する日が来た。でも心のどこかでそれを躊躇し不安になる自分もいたのだった。
あの日のことは 今でも鮮明に思い出せる
それは夢のように美化され、霞みがかった記憶だ
当時は決していい想い出などになるとは思わなかった
むしろ早く忘れてしまいたかったのに…
ショーのデビュー戦(あえてこう呼びたい)は散々だった。
途中、振り付けを忘れ棒立ちになるわ
退場する時誰かの足に引っかかってつまづくわ
1人だけ幼稚園のお遊戯状態だった。
舞台袖で佐々木が
「みっともねえなあ。」と大笑いしていた。
女の子たちは皆、そら見たことかとヒソヒソ笑っていた。
トイレに籠りたい気持ちの私に歩み寄ってきた玲子さんが
「大丈夫。初々しさと可愛らしさはあなたが1番だった。」
と優しく微笑んでくれたのが唯一の救いだった。
借りた8万円はすでに給料から引かれていた。
この足で逃げ出すことはできた。
でも私はそうしなかった。
なぜだろう。
聞けるものなら、当時の私に聞きに行きたい。
「おい!聞いてんの?」
「え?」
私は向かい合ってアイスコーヒを飲む拓也を見た。
「なんだよ。人の話スルーかよ」
「ゴメン、ゴメン」
「だから、内定のこと。〇〇と△△じゃどっちがいいかって聞いたのっ」
いずれも人気の大手企業だ。
2つ年上の拓也はすでにいくつかの企業に内定していた。
どうやら彼は社会的には高評価を受けるタイプの人間らしい。
きっと私には見えないところで優秀ということなのだろう。
私みたいな彼女でタッくんは損じゃないのかなあ
ふとそう思った。
拓也を見ると、何かをチラチラ気にしている。
視線の先には、楽しげにお喋りするミニスカートの女子高生たちがいた。
あからさま過ぎる態度に、なぜか嫉妬心は湧かなかった。
拓也は遠くのガラス張りの壁に映る自分の姿を捉えると
手ぐしで自分の額にかかる前髪を整え始める。
例え通りすがりでも可愛い子には片っ端からモテたいのだろう。
「あ、そうそう土曜の夜クラブのイベント呼ばれてんだけど桃子も来るだろ」
拓也は遠くの鏡に視線を合わせたまま言った。
「あ、土曜日は行けないや、ゴメン」
「バイト?」
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