一人の発達障害児が、健常への道を諦めて天才に至る道を選択する話 1

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河原に住みながら道ばたの雑草を吸ってみよう。


冬はいい。移動しなくてすむ。

秋は次にいい。山を下りられる。

夏はまあまあ。暑いけど上流から野菜が流れてくる。

春は最悪。ダニが大発生する。


冬に蓄えた塵やホコリや垢、それらを栄養にして大繁殖し、皮膚の弱い部分を喰われてカユさで死ねる。



トラックを改造したキャンピングカーで車上生活を続けて二年。

どの季節が暮らしやすくて、どう対処すれば過ごしやすくなるのか大体把握してきた頃合いだった。


雑草たばこ



岐阜の山間の河原。夏の雪捨て場。

わびしい飯を終え、ココアと乳幼児用ミルクを混ぜたドリンクを自作のロケットストーブ「一本かまど」の残り灰で湧かす。


今までの浮浪生活は楽しく、そしてこれからの生活の見通しも立っているが、なぜこんな道に入ってしまったのかは全くわからなかった。

自分は精一杯やった。

やりたいようにもやった。

精一杯やりたいようにやった結果がこれなのだとしたら、おそらくこれが自分の生きていく道なのだろう。

そう思った。


葛のツルを手折る。棒状にし、チタンのコップの底に残ったココアをつついて溶かす。

乳幼児ミルクの甘みと一緒に飲み干し、誰憚ることなくげっぷをした。


お皿代わりに使った三枚の葛の葉っぱを捨てようとしたその時、ふと過去に読んだ2chを思い出した。


「道端に生えている草を何でも吸ってみるヤシの集うスレ」


そこらへんの雑草には、時として思いもよらない効果を発揮するものがある。

スレ内では、まるでVRゲームに潜むバグを片っ端から試して見つけるような、そんな現実デバッガーたちが寄り集まって雑草を片っ端から吸っていた。

もしかしたら自分の中に潜むバグも、このデバッガーたちがデバッグしてくれるかもしれない。

そんな支離滅裂な、しかし切実な思いを込めて、まだ玄米のひっついている葛の葉っぱを握りしめた。夏の日差し差し込む運転席のダッシュボードで乾燥させる。

カシュカシュにしゃいだその葛葉を、ドキドキしながらコピー用紙に巻いて吸ってみた。


何の変哲もない煙にほんのり、ふりかけカスの焦げる匂いがした。



ケシとの出会い

夏がその威力を増してくると、高度500m程度の岐阜ではまだ若干暑い。

住みやすくはあった。上流から野菜は流れてくるし、魚もわんさか釣れた。50円で買った釣り針に石裏のザザムシを引っ掛けただけなのに。

しかし暑さには勝てない。熱でダニを殺せるのはありがたいが、自分も殺されそうだったのでより高地へと向かう。


向かった先は、標高1000m弱にある道の駅、南アルプス村長谷。


当たりだった。

ここは非常に住み心地が良い。イングリッシュハーブ園が真隣にあり、通報されず、wifiが通り、水道も使い放題、安い野菜も買えて、ダムで泳げて洗濯できる。

これほどの良条件は滅多にない、お得物件。

ここでは本当に色々なことがあった。滝で体洗ったらその滝がし尿処理施設の排水だったり、独居老人の話し相手になってお風呂を貸してもらったり、ダムで一人泳ぎまくったり、洞窟を探検したり、味噌漬け粕漬けどぶろく作りに勤しんだり、道の駅内で紹介されていた喰える野草を片っ端から喰ってみたり。

とにかく楽しかった。(一つ一つ詳しく書きたいが、ブログに載っていることばかりなので割愛する)


そして、ケシ。

浮浪生活は資源に敏感だ。どこに何のゴミが捨てられ、何曜日に野菜市が開催され、自由に使っていいインフラがどこにあるかを把握する。

その一環で、見つけた。


クサノオウ。


本当に道端に生えていた。黄色くて小さな花を咲かせ、精一杯がんばって赤ちゃんの手のような葉っぱを広げている。

ケシ科。有効成分ケリドニン。アヘンの代わりに吸われていたという歴史を持つこの草。日本では全く法規制されないまま放置されている。

見つけたときは本当にびっくりした。おとぎ話の世界が突然目の前に現れたようだった。

小躍りしながら摘み、車のダッシュボード上で乾かし、100均で作った水パイプに詰め、ライターで炙りながら吸ってみた。



驚いた。

目に飛び込んでくる街灯の光が十文字に見える。

背筋に快感が5〜6回走る。

意識は覚醒し、世界が完璧に見える。そうとしか言いようがない。


バグを見つけた快感は、まさにこれなのだろう。

世界はバグで満ちている。ほんの少し薄皮をめくってやれば、ほらこんなにも完璧に薄ら淀んだバグが見つかるじゃないか。

目をかっと見開きつつ夜のダム湖畔をさまよう。擦れる草がとてもくすぐったい。秋虫の鳴き声が脳内でサラウンド再生される。


そのままの心地で眠ると、裸の女性の夢を見た。

夢なんて久しぶりだ。何年ぶりだろう。目の前に裸の女性がいるのにエロいことは何一つせず、ただひたすら隣に寄り添って肌の暖かみを分けてもらう。

その時気付いた。

「ああ、このひとはお母さんだ」って。


続く。




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