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16/10/17

一人の発達障害児が、健常への道を諦めて天才に至る道を選択する話 2

Image by Olia Gozha

都会での車上生活


金が尽きた。

浮浪生活は大体月2万円ほどかかる。贅沢をすれば3万円弱だ。

これが完全に体一つっきりのプロ浮浪者であればもっと安く済ませられたのだろう。しかし自分は健康保険も手放していない、車というチートありのアマチュア浮浪者だ。


その代わり、働くことができる。


杉並区役所に電話をかける。

青井「すみません、働きたいんですけど住所が登録できなくって……」

区役所「あ、そうですか……。ちなみにお住まいはどちらですか?」

青井「浮浪者です。」

区役所「あっ…(察し)でしたら、どこかウィークリーマンションかマンスリーマンションかを借りてもらって、というかお友達がいらっしゃるならその方のお住まいにちょっとの間だけ住民票を置かさせてもらうとかで……」

青井「かしこまりました。ありがとうございます。」


ちょうど師匠(ラノベを書いているアニメ化作家。大学の後輩)が北海道から東京の杉並区に冬の間だけ移り住むという話だったので、時期を合わせてそのマンスリーマンションの隣の駐車場を借りることにした。先輩特権で住民票を置かせてもらって、しかも風呂トイレまで貸してもらい、さらにほとんど毎日飯をおごってもらいつつ文筆のノウハウまで教えてもらった。

このときの恩は本当に大きい。修辞抜きで「助けられた」、と言っても過言じゃない。いつか絶対に恩返ししたい。



バイトと傷


さて。

住民票を得たことによって、電話一本ですぐに働き口が見つかる。

棒立ちしていればいいバイト、警備員だ。


もちろん警備員としての仕事の奥は深い。

シフト管理をして、営業で仕事を取ってきて、上下関係をしっかり弁え、怒鳴るときは怒鳴り、夏の暑い日にも冬の寒さにも負けず、格闘技をたしなみ、デング熱で足がパンパンに腫れたとしても仕事を休まない(ホモにケツを狙われ続けているネアンデルタール人に似た上司談)。

しかしまあ、それは社会としっかり噛み合う人のすることであって、自分にはそれはできない。それができるのであれば最初っから車上生活などしていない。起業だって成功していただろうし、いやそもそも就職していただろうし、人と話しただけで頭が痛くなることもなかっただろう。

だから、ただ言われた服を着て言われた場所で棒立ちになる。それだけで日給一万円前後がもらえる。

これは二日働けば河原で一ヶ月暮らせる額だ。

都会は駐車場代が高くて二万円/月かかったので、だいたい月に四日働けばトントンになる。


そう思ってゆるゆると制服立ちんぼしていたのだが、ある時池袋の東口にあるミスドで立哨することになった。

日も暮れてきた時間に、左のはす向かいからキキキーガシャーンというけたたましい音が聞こえてきた。このときはまだ何が起こったかよくわからず、せっかく取った上級救命の腕章がようやく活躍するかもと思って勇んで駆け寄る。


 赤いワンピースの女性が道の真ん中で死んでいた。


いや、今思い起こせば赤くなかったかもしれない。記憶が混濁している。赤かったかもしれないし赤くなかったかもしれない。少なくともその周りは赤かったように思う。

とにかくそこで立ち竦んだ。左を向く。

ひしゃげた公衆電話と街灯。突っ込んだ車はポールが運転席付近までめり込んでいる。

右を向く。駐在にいた警官が取る物も取り敢えず現場に走り寄っている。


頭が完全に、真っ白になり、次に「ああ、警官が来たならいいや。いいよね。おれの出番はない。もとの位置に立たなきゃ。もとの位置に、立たなきゃ。もとの位置に」と、それが体のいい言い訳であることにも気付かずその場を後にした。


その一週間後にそのバイトは辞めた。



そうやって働いては野辺に暮らし、傷が癒えたらまたちょろっと都会で働いては山で暮らした。



研究者との出会い


そうするうち、バイトも様々変わった。

ある日、セメントの荷揚げバイトの面接を受けに立川まで行った時があった。

そのときに隣で一緒に面接を受けた人の言葉に、予想しない方向からの衝撃を受けることになる。

青井「こんにちは、一緒に働く青井です。よろしくです」

fei「こんにちは。普段は何をされてる方なんですか?」

青井「普段は車上生活してます。もう三年になります」

fei「車上生活ですか」

青井「車上生活しながら雑草吸って、これこれこんな発明して、面白おかしく暮らしてて……」

fei「それは面白いですね。」

青井「あなたはどんなことしてるんですか?」

fei「私は天才を研究しています。」

青井「天才を研究? 天才的な研究者ではなく?」

fei「はい。そしてあなたから、天才の匂いがします。」


天才の匂い。


青井「天才ってそんな……/// そんな大それたものじゃありませんよ」

fei「でしょうね。あなたはまだ天才ではない。」

青井「えっ」

fei「天才には踏むべき段階があります。先ほどの話だけで判断するなら、あなたはまだ天才に至る階段の初段に足をかけたところですね。」

天才研究家と名乗ったその人、feiさんは、自分よりも6歳は年下ながら、自分の身に起きた今までの事柄について自分よりもうまく解釈する術を持っていた。


天才に至る階段。


石粉舞う工事現場でマスクも支給されず塩っぽい汗をただ流しながら……

その言葉だけがリフレインしていた。


続く。



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