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16/10/19

世界47カ国女子バックパッカーができるまで(16)

Image by Olia Gozha

友達の、本当の意味を知った~回想2~

坂道をセントオルバンスの街中まで歩き出した私は、一歩一歩を踏みしめながら進んだ。

雨で濡れた石畳はつるつると滑りやすく、気を抜くと道にひっくり返ってしまうくらい危険だった。

一歩一歩を踏みしめながらゆっくりと進むうちに、小雨だったにしろ数歩で私の両肩は濡れそぼってしまった。


頭の中を、自分の言葉が反響していた。

ケイシー「ほんとに、イギリスに来てよかったのだろうか・・・」

そう思い出すと、途端にマイナス思考が止まらなくなった。すぐに天気の悪くなるイギリスの天気も、口下手でうまくコミュニケーションのとれないホストファミリーも、学校で集団でつるむ日本人も、セントオルバンスの町も通りを行く知らない人もなにもかもが自分に辛辣にあたる敵のように思えてきた。両肩はますます重く、冷たくなり小雨は私の身体を芯まで卑屈にさせていた。

ケイシー「もう、日本に帰りたいよ・・・」

そんな思いが頭をよぎったとき、同時に思い出したのは日本にいる家族の顔、送り出してくれた友人たちの顔だった。

ケイシー「そうだ私は、まだ、帰れない。」

日本にいるころには当たり前に感じていた家族や友人の存在が、自分のおれそうな心をここまで支えてくれるとは思いもよらなかった。


私は前を向き、当てもないもう一歩を踏み出した。

その時だった。通りの向こうから、鋭いクラクションのようなものが数回聞こえた。

その方向を見ると、そこには大きなバスが坂道を上っているところだった。なんだ、前の車に鳴らしたのかと思いもう一度私が前に向き直ると、そのバスはまたブブー!!とクラクションを鳴らすのである。

ケイシー「もしかして、私?」

そうつぶやきバスの運転席を見ると、そこにいた運転手はもう一度ブブッと軽くクラクションを鳴らし、こちらを見て軽くウインクをしてきたのだ。右手でこっちに回って来いよ!という仕草をしているのが、遠目にもわかった。


私は小さな財布の中に3ポンドしか持っていないことも忘れて、引き寄せられるようにして通りを横切り、そのバスの乗降口に近づいた。小雨の降る外から見るバスの中は安心で、平安で、何も問題など思ていないまるで天国のように映った。


プシュー・・・とバスの昇降口が開いて、ひょうきんな笑顔を見せる運転手がそこに座っているのが見えた。

運転手「乗りなよ!そんなに濡れちゃってさ!」

彼のそんな軽い口調に、どれだけ救われたことだろう。

タラップを上ると、バスの車内は居眠りしている老婦人がひとりきりで、がらんどうの状態だった。

運転手「なんだってこんな雨の中を、好き好んで歩いているんだい?」

イギリス人らしいジョークを込めて、彼は聞いてきた。他にもいろいろと英語で聞かれたが、私には彼の話が半分も理解できなかった。まだ、私の英会話能力はそのレベルなのだ。

それでも、自分の乗る電車が止まってしまい家に帰れなくて困っている、ということはなんとか伝えた。

運転手「それなら、この町の反対側にあるセントオルバンス電車駅まででよければこのまま乗っていけばいい。」

ケイシー「いいんですか・・?」

駅までの道すがら、運転席のそばに立ちながら彼は自分のことを話してくれた。

名前はシリル。エジプト人でフランス語、イタリア語、英語もしゃべる。浅黒く面長の顔だちに、情緒深い目が印象的なひとだった。

彼はまた、昔よく日本人を乗客として乗せていて、そのときに少しだけ日本語を習ったことがある。でも彼は日本に帰ってしまい、日本語を習う機会がなく残念に思っていたと言った。

私はそんな親切な彼の日本の友人になると、約束をしてバスを降りた。

シリル「いつも、夕方はこのセントオルバンスをずっと巡回してるんだ。またいつか僕のことをバス停でキャッチしてよ。今日みたいに、僕の隣に座って僕は君に英語を教える。君は僕に日本語を教える。そうしよう。」

そうして私達は連絡先も交換せずに、別れた。

バスの運転手・シリルの生き方は今日まで私の生き方に大きな影響を与えている。


自分の利益を顧みずに困っているひとを助ける。彼の行動はその後の私の人生にターニングポイントをもたらしたのだった。

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