フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第23話

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愛と迷い

《ここまでのあらすじ》初めて読む方へ

普通の大学生だった桃子は、あることがきっかけでショーパブ「パテオ」でアルバイトをしている。野心に目覚めた桃子は少しずつ頭角を表し店の売れっ子へと上りつめていく。そんな最中、脅迫され襲われかける桃子は店のチーフマネージャーの佐々木によって助けられる。その夜を境に粗野で皮肉屋な男だと思っていた佐々木に対して惹かれていく自分に戸惑う桃子であった。



ハンドルを切りながら佐々木がふいに聞いてきた。


「杏て、いくつだっけ?」


「え…ハタチですけど」


「わっけえなあ〜〜」


佐々木がしみじみと呟く姿が可笑しかった。


「なに、その反応。オジサンみたい」


「なんだとお前」


「アキさんは…」


言いかけて少し間を置いた。


アキサン…言葉にするのはこれが初めてだった。

少し顔を赤らめたのだが、深夜の薄暗い車内でよかった。


「ん、何だ?」


「いくつなんですか?」


「俺?28。ハタチから見りゃ立派なオッサンだろ」


「あ、そうなんですか。もっと上かと思った」


「なんだそりゃ、そんなにオヤジ臭いか俺?」


「いや、だって、ヒゲあるし」


「あのな、髭なんちゅうもんは、高校生だって生えるわ!」



佐々木は顎のヒゲを触りながら笑った。



「ったく、お前らときたら、客にはアラ!見えない!!

お若いわあ!とか言っちゃてよ。俺にも少しはお世辞言えよ」



「へえ、お世辞でいいんだ」


いつの間にか私も微笑んでいた。



「ま、いいのよ、男は。歳食ったって、こう…なんての?

老いがさ、なだらかなもんだろ。」


佐々木の指が宙でなだらかな弧を描いた。


「女は?」



「女は…ありゃ悲劇だな。歳食うと急降下だもんな。

   お前もよ、いつまでもハタチだと思うなよ。あっちゅうまにオバさんだぞ」



佐々木は、ざまーみろと言ってガハハと笑った。


私は苦笑した。

いかにもこの男らしい偏見だ。


ふと聞きたくなった。



「玲子さんは?」


本当はこの名前を出した時の佐々木の顔を見たかったのだ。



「玲子?」


佐々木は表情1つ変えず前を見ていた。



「いくつなんですか?玲子さんて」



「そりゃ、お前。企業機密だよ」



「企業機密?!」



「いや、冗談だけど。いや俺もさ本当のところは知らんのよ」



変なの。恋人の実年齢も知らないなんて。


佐々木が人差し指を唇にあてながら声を潜めた。



「噂だけどさ、ここだけの話、お前の歳のちょうど倍らしいぞ」



「ええ!?」



私はびっくりして飛び上がりそうになった。




「バーカ、噂だっつったろ」



嘘に決まってる。信じられない。


あんな綺麗な肌をして、スタイルだってモデル並みだし。


それがうちのお母さんと大して変わらない年齢だなんて。



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