6浪して大学へ: 貧乏,どん底の挑戦

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 ということに気がついた。ずっと大学受験に目を向け、それ以外のことは一切考えてこなかった私が初めてこれまでの人生を反省した瞬間だった。一人暮らしという選択をしたことで、貯金などできず、これまで以上に必死にアルバイトをした。もちろんいままで以上に生活は苦しくなったが、だからこそ、家族という存在のありがたみを知ることができた。

       

 ■一通の手紙


 長い間目指してきた大学受験や先生になりたいという「夢」や「目標」が、いつの間にか「理想」に変わり、そのままどこかへいってしまいそうだった。これまで歩んできた生活が私にとっては過酷過ぎて、高校生のころに抱いた勉強に対する感動や将来に対してワクワクしていた感情も今やないも同然だった。 

 

  引っ越しの際、かき集めてきた荷物を整理していると、見覚えのある小さなお手紙が出てきた。それは私が高校生のころボランティア活動の一環として参加した子ども会のキャンプで、小学3年生の女の子がくれた手紙だった。

 

「さとけい先生へ

きょうはきてくれてありがとうございます。鬼ごっこをしたときのさとけい先生の顔がほんとに鬼みたいで泣きそうになりました。でもすごくたしかったです。またきてください」


 これを読んで私は当時のことを思い出した。高校生のころはどんなことにも全力だったなー。アルバイトも勉強もそしてボランティア活動にも。自分が最も輝いていた高校時代。思えばこれまで先に先に進むことばかり考えて、自分がどんなことをしてきたかを振り返ることがなかった。

 片付けの中で、大きなファイルも出てきた。開いてみると、高校3年間で参加したボランティア活動の記録書だった。なんと3年間で128時間ボランティア活動をしていた。ページを繰っていくと例の子ども会のキャンプの項にたどり着いた。

 

「この活動に参加しようと思ったきっかけは何ですか」

「あなたがこの活動で学んだことや気づいたことは何ですか」

「改善すべき点は何ですか」

など項目が並び、その中にこんな項目があった。

 

「この活動で印象に残っていることは何ですか」

「子どもたちからもらったたくさんの『ありがとう』です」


 これだ!今の自分に欠けていることは!あのころの苦しいながらも輝いていた自分を思い出した。そういえば最後に「ありがとう」を言ったのはいつだろうか。浪人してからは、誰かに「何かをしてもらった」ことよりも、「してもらっていない」ことの数を数え、その多さを嘆いてきた。

 

  涙が流れてきた。逃げるように自ら描いた将来をあきらめ、そして自らの努力不足、精神の弱さや甘えを「貧乏だから」を理由にごまかしてきた。いったいどれだけの人に支えられ、ここまで生きてきたのか。ここでやめたら私を支えてくれた人たちの好意も無駄になる。もう一度、もう一度、がんばってみよう。

      

 ■地獄の浪人時代 

5浪目(舞台は世界?)


  気持ちを新たにし、大学受験に向けて再チャレンジを試みた。

  焦ろうとする自分自身を抑えつつ何かいい方法はないかと考えた結果、行き着いたのは、


「そうだ!イギリスへ行こう!」

何を考えているんだこいつは!と誰もが思うだろう。長い長い浪人生活のせいで、正常な思考ができなくなっていたのかもしれない。

  考えてみれば、これまで大きな目標を達成した経験がなかった。その快感がどれほどのものか実感してみたかった。

  「旅をすれば何かが変わる」ということを聞いたことがあったし、いい刺激になると思った。受験勉強で鍛えた英語を使い、なるべく遠くの国へ行きたかったため、イギリスを選んだ。

 

  集めた情報によるとイギリスのロンドンで1ヶ月留学するなら、安いところだと航空費、生活費、語学学校の授業料全て込みで40万程度だそうだ。一人暮らしにも慣れ、それなりに節約し、少しずつではあったが貯金もできるようになっていた。これくらいならなんとかなりそうだと、早速手続きをし、アルバイトに精をだした。


  気持ちを完全に切り替えるために、ひたすら留学に必要なことだけを考えた。

   何か目標を持ったとき人はこんなにも情熱的になれるのかと我ながら驚いた。嫌々やっていたアルバイトも楽しくなり、留学することが待ち遠しくて、久しぶりにウキウキしていた。これは高校1年生のころに初めて目標ができたときの感覚とまったく同じだった。

 

  2012年5月、成田空港からロンドンへ出発。初めての海外、初めての一人旅。飛行機の上から地上を眺め、「今までこんな小さなところで右往左往していたのか」と思うと、何だか気持ちが楽になった。外から見たら、自分の悩みなんて小さいものだ。これから1ヶ月というほんの短い期間ではあるが、新しい生活が始まる。いい経験になることを祈って。


■I am sixty hive years old? 

 

  ロンドンでの1ヶ月はとても貴重だった。人生で初めて1ヶ月の間アルバイトがない生活だった。思えば勉強以上に必死になって取り組んだアルバイト。それが今はない。

時間がゆっくり流れた。お金より大切といわれる時間というものを時給800円くらいと交換してきた。

「もし今までアルバイトにつかってきた時間を別のことに使えたら、どれだけ多くのことができただろう」などと余計なことを考えた。

 

   語学学校では様々な国籍や年代の人たちがいた。私のクラスでは10人前後のクラスメイトがいた。18歳の韓国人、20代のサウジアラビア人、30代のドイツ人、40代のイラン人、60代のブラジル人のおばあちゃん。挙げればキリがないが、日本人の私を快く受け入れてくれた。


  それぞれ自己紹介を始めた。受験勉強ばかりでスピーキングの訓練なんてしていなかったからうまく話すことができなかったが、難なく溶け込めた。60代のブラジル人のおばあちゃんに関しては、前歯がなくて、I am sixty five years oldと言うべきところを、sixty fiveがsixty hiveと言って場を和ませた。

その人が常に言っていた言葉がある。それは、

 

Today is the first day of the rest of my life.

今日という日は残りの人生で最初の日である。

 

   過去をひきずってきた私にとってこの言葉はとても含蓄のあるものだった。なにより新鮮だったことは、国籍も年代も違う人たちが一つの教室で同じことを勉強しているということだ。それは日本では見たこともない光景だった。考えてみればなぜ彼らはわざわざここへ勉強しに来ているのだろう。


  直接聞く機会はなかったが、なにか目的があるはずだ。目的や目標がないならあんなにも真剣に勉強しようなんて思わないはずだ。それぞれの目標に向かって、国籍も年代も異なる人たちが一つの教室で一緒になって勉強するという光景に感銘を受けた。

 

 ■50年後に後悔しない人生を!

 

  心が不安定であること、環境のせいにして自分が前に進もうとしていないこと、なんとも言い難い虚無感など自分のことを現地の先生に相談する機会があった。英語で心のモヤモヤを説明するのに苦労したが、先生は一言で返してくれた。

 

 Do not regret your current life in 50 years from now.

「50年後に後悔しない人生を生きろ」

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