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17/3/5

【12話】花火

Image by Olia Gozha



物語には始まりがあれば終わりがある。あやかがいなくなってから、僕はそのことに気がつき始めた。

職場でリーダー的存在だった増田君も会社をあやかの後を追って退職することになった。

決して彼女を追いかけるわけではなかったが、彼も大学の授業が始めるということでやめざるを終えなかった。僕は内心とても寂しかった。

増田君「なんで前田さん、あやかのLINE知ってんすか!」

「(あやか、増田君にLINE教えてなかったのか...ショウですら知ってるのに...。)」

増田君は自分だけあやかのLINEを知らないことを愚痴りながら、シオンから荷物を抱えて出て行った。

最後に迎えのバスがシオンに来ていたので、別れの挨拶をしに行った。彼は車の出発を待つ間もずっと勉強の本を読んでいた。本を読みながらも眉間に皺を寄せて、どこか寂しそうな表情をしていた。

増田君は、シオンを去っていった。

それから数日後、ずっと考えたくなかったが、カオがこのペンションを去る日も決まる。

朝礼で、片桐さんが、一週間後にシオンを離れる人を発表したのだが、その中の一人にカオの名前があった。朝礼の間、僕はカオの方を向いたがカオは僕と目を合わせようとしなかった。

シオンを去るその日までもう1週間をきっていたのだ。

人生で初めての「青春」と呼べる時間があっという間に過ぎ去ってしまう。時間を止めたいと思うがその術はない。

僕は深くため息をつき、下に首を垂らした。

片桐さんとは朝礼の後に、清掃部屋を開けるための鍵を借りるために、話をした。

そのとき、片桐さんから良い情報を聞いた。

今夜、新潟では花火大会があるそうだ。彼女とどうしても花火大会に行きたくなった。

せめて彼女と最後の思い出を作りたい。

その気持ちを抑えながら仕事をし終えた。

「そういえばカオはどこにいるんだろう?」

僕は少し考えた。彼女はきっとあの場所にいる。僕はベンチに走っていった。

カオがベンチに座っている。今日の彼女はラフな格好で、Tシャツにジーパンを履いていた。

ラフな服装もとても似合っている。その恰好が彼女の長い足をより際立せた。カオに挨拶した。

僕は僕は彼女を楽しませたかったので、増田君のことを喋り始めた。

僕は彼女に寂しさを悟られないように明るくふるまう。

「増田君って本当についてないよなー!」

増田君にはネタにして悪いが、明るい話をしたかった。彼女がクスクスと笑う。

そろそろ花火大会の話を彼女にしようとした。そうしたら彼女が先に話を始めた。

カオ「ケイさん、今夜花火があるんですけど、一緒にいきますか?」

「えっ!花火大会!?」

僕はビックリした。彼女も全く同じことを考えていたのだ。きっと最後に思い出を作りたいと思ったのだろう。嬉しいけど、なぜか寂しかった。きっとこれが二人にとって最後のイベントになるだろう。

カオ「すごい人ですね!」

僕達は、その夜、河川敷が花火がよく見えるというスポット聞き、電車でその場所に向かった。

河川敷には大勢の人たちが花火を打ち上げられるのを待っている。大勢の人だ。

僕は屋台で買ったかき氷をカオと座って一緒に食べる。かなり大きいサイズで一人では食べきれそうになかった。

浴衣を着ているカオは絵になった。かき氷を食べながら花火を待つ姿は、とても美しかった。



ドーン。

ついに一つの花火が打ちあがった。打ちあがっては消え、打ちあがっては消える。はじめは小さかった花火は、消えるたびにその姿を大きくし、何色もカラフルな色に姿を変えていく。

美しい時は一瞬で、とても儚い。

ふと、カオを見た。カオはずっと花火を見つめている。その瞳はどこか哀しみを帯びていた。

僕達の物語も、思えば一瞬だった。前触れもなく、打ちあがり、大きくなり、色は変えていった。

そう花火のように。

カオが体を僕に寄せた。



彼女の暖かさを感じる。ずっと傍にいてほしい。

僕は静かにそう願った。カオも同じことを考えていてくれないかなぁ

花火は終わりに近ずき、姿をより一層大きくダイナミックに咲き誇る。

まわりの歓声が大きくわく。しかし僕達の間に言葉はない。

カオの方を向くと、彼女をずっと花火を見つめていた。そして彼女の目から一筋の涙がこぼれた。

言葉がなくても、それが何を意味しているのか僕はわかっていた。

僕は無意識に唇を嚙み締めた。

そうでもしなければ僕の目からも涙が落ちてしまいそうだったから。

ずっと消えないで欲しい。そう願っていながら花火を終わりまで見つめていた。

しかし僕の思いとは裏腹に、美しい花火はわずかな煙だけを残して消え去っていった。

美しい夏の日々は終わろうとしていた。

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Image by Jukka Aalho

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