フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第30話
《これまでのあらすじ》初めて読む方へ
あることがきっかけでショーパブ「パテオ」でアルバイトをしている大学生の桃子は、少しずつ頭角を表し店の売れっ子へと上りつめていく。そんな矢先、恋心を抱きつつあった店のチーフマネージャー佐々木が店を辞めショックを受けパテオを辞める決心をする桃子だったが、佐々木からの店を取り仕切る玲子に裏切られていたことを聞いた桃子は、玲子をいつか見返すことを誓い再びナンバーワンの座を狙う。そして、人気順位1位と2位のルイとアヤを半ば陥れるなどして、ついに一位の座に上り詰めたのだった。
私は、毛皮のコートの裾を気にしながら
澄まし顔でソファーに腰を下ろそうとした。
両隣の女の子たちが、十分の間隔があるにも関わらず
私に少しでも広いスペースをあけようと腰を上げる。
2人して緊張した面持ちだ。
私は当然のようにそこに腰を下ろし
足を組みタバコに火をつけた。
開店30分前のラウンジ
月に一回の月例会には
総勢50人以上のスタッフが集まる。
その月の売上がトップのものを表彰するのだ。
週一のミーティングにはここ数ヶ月顔を出していないので
見渡すと知らないホステスばかりだ。
最近は自分の上客以外の顔をまともに見ていない。
おそらく、それは私のせいじゃない。
私と目を気軽に合わせられる者がいないからだ。
玲子の背後のソファにはオーナーの川崎が座っている。
相変わらずちょび髭を生やしソファにもたれて
誰かと携帯電話話している。
玲子が私を待っていたと言わんばかりに
連絡事項などを話し始める。
胸の空いた白いロングドレスに
相変わらず艶のある巻き髪が揺れている。
ただ、大の酒好きというだけあって
連日浴びるように飲むものだから
最近は酒焼けした声になったと、もっぱらの噂だ。
この人の場合、私のように1年そこらじゃなくて
20年以上そんな生活を続けているのだから
無理もないだろう。
全てはお金と今の地位を欲しいままにするため
以前は神々しいほどに思われた玲子の顔を
私は侮蔑のこもった目で見つめていた。
その玲子が突然、こちらを振り返りニッコリしたので
さすがにドキッとした。
「杏さん」
私は軽く頷き立ち上がった。
ラウンジ中の視線を今、私が独占しているのを感じながら。
玲子は満足げに私を見つめ
「今月もトップね!おめでとう!」
と歯を見せて笑った。
私は札束がギッシリ詰まった重みを感じながら
分厚い封筒を受け取った。
広いラウンジから大きな拍手がこぼれた。
私は機嫌のいい声で
頭を下げずに、ありがとうございますと言った。
玲子の胸元はライトに照らされて
鎖骨の下が真っ平らで
真ん中にはろっ骨の形が浮き上がっていた。
その下にある胸の膨らみは不自然な気がした。
色々、取り繕ったって
やっぱり老いは隠しきれないんだ…
私は心の中でクスリと笑い彼女に背を向けた。
席に戻る途中
わずかに残っている私と同期入店の子達の席や
先輩ホステスたちのグループの前を通った。
その中でシラけたように、ふて腐れた顔があるのを
視界の隅で捉えた。
「調子乗んなよ。汚い手使いやがって」
ギャルメイクの金髪が小声で吐き捨てた。
私より半年くらい先輩で
入ったばかりでショーメンバーになった私を
何かにつけバカにして笑っていた女だ。
一時期はステージの中央近くで踊っていたが
今はすっかり端に追いやられている。
ただの負け犬だ。
相手にする価値もない。
気にも止めず颯爽と通り過ぎた。
それ以上に今は
羨望の眼差しを浴びることに集中したかった。
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