フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第29話

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《ここまでのあらすじ》初めて読む方へ

あることがきっかけでショーパブ「パテオ」でアルバイトをしている大学生の桃子は、少しずつ頭角を表し店の売れっ子へと上りつめていく。そんな矢先、恋心を抱きつつあった店のチーフマネージャー佐々木が店を辞めショックを受ける。やけ酒を飲んだ帰り、思わぬ母の訪問などあり、ついにパテオを辞める決心をする桃子だったが、佐々木からの電話で、店を取り仕切る玲子に裏切られていたことを聞いた桃子は、玲子をいつか見返すことを誓い再びナンバーワンの座を狙い奮い立つのだった。



思えばあの夜までは

いくらがむしゃらに売れっ子を目指してきたとはいえ


私はまだまだ醜悪的なものから目を逸らし、避けていたと思う。


どこかで本能的に防御し、いつでも真っ当な人生に戻れる道を

確保してきたのだと思う。


でもあの夜を境に私は

明日のことを考えなくなった。


明日も笑って過ごせるか

明日も心身ともに健康だろうか

明日も母の望む娘に戻れるか


明日も生きていられるか


ましてや皆にどう思われていたいかなんて

私にはどうでもよかった。



私は人生のステージ全てをパテオに賭けるつもりでいた。



今思えば、ただの浅はかな小娘だった。


その怒りや不信の矛先がそこへ向かったのは

私が成熟した大人ではなかったからかもしれない。


でも21歳の私には


それが精一杯の反抗であり


人生を賭けた野望のつもりだった。




私が、当時あの歓楽街で最も人気店と言われていた

パテオのナンバーワンホステスになるには

それまでの何倍もの努力が必要だった。




ただ闇雲に

売れようと、躍起になっていた私が

自分の容貌、笑顔、お愛想、色気、会話、気遣い

絶妙なタイミングを計ったコミュニケーション

など駆使して手に入れられるのは


せいぜい3番手までだった。




ナンバーワンになるために自分にまだ何が足りないのか?


暇さえあれば接客マナーのや営業力アップの本を読んだり

人を惹きつけるための心理学も独学した。


ナンバーワンになるための策略を練った。


そして、私の仕事へのプロ意識は変わっていった。


さらに、上を目指せば目指すほど

私は狡さを身につけていった。


1つは、客によって接客に差をつけるようになった。

それまではなるべく平等に接してきた方だったが


多くお金を落としてくれる

いつでも羽振りの良い客と、いつも時計を見て帰る時間を気にしているような客に同じ内容の接客サービスをするのは馬鹿馬鹿しく思えてきたのだ。




私は密かに黒服の一人と親しくなった。


佐々木がいなくなった穴を埋めるため

新たに玲子が雇ったのだ。

まだパテオに来て間もない安田という私と同い年の男だった。


店の売れっ子である私に声をかけられたり、気にかけられ

安田は始めは警戒して来たが、すぐ有頂天になった。


当時、店で一番下っ端だった安田と

私は店で待ち時間や、すれ違いざまに言葉を交わした。

彼は私と対等ではなく、私の忠実なしもべのような存在だった。


一度だけ一緒に飲みに行ったことがある。

その時私は、あることを彼に頼んだ。


彼は二つ返事で引き受けてくれた。



佐々木が去った後

黒服のボーイたちの中でまだ佐々木に代わる

チーフマネージャーが決まっていなかった。


あの佐々木のヤクザ顔負けの迫力ある威圧感、存在感が

店から失くなってから黒服の中に

いつも漂っていたピリピリした緊張感も失われ

調和が乱れ、動きにもキレがなくなっていた。


玲子が店を何日も不在のする時などは

客だけでなく女の子たちからも苦情が殺到していた。


内心、私も動きが悪く気の利かない黒服に

イライラするときもあった。


しかし私はそこへ目をつけたのだ。


黒服たちの出勤はホステスよりもずっと早い。

店の掃除や回転準備、そしてミーティングがある。

最初に店に入るのは、当番制で2人でと決まっていたが

一番嫌な役目は下っ端に押し付けられた。


安田は毎日1人で店に入り、他の物が遅れてやって来るまでの

1時間ほど店の掃除をしていた。


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