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17/2/11

最終話:11歳で母を自殺で亡くした若者が生きることを諦めなかった『からあげ』の話。

Image by Olia Gozha

からあげが2個

そのような僕が生きることを諦めなかったのは、理由がある。

僕は中学校に入ってクラスの委員や部活動でリーダーを務めるようになった。前向きな気持ちがあったからではない。周りに心配をかけてはいけない、自分がしっかりしなければいけない、その気持ちだけが体を動かしていた。

放課後は、夜遅くまで友達と遊ぶようになった。部活動が終わって帰宅すると、自転車に乗ってバスケットボールのコートがある公園へ行く。友達にもひとり親や遅くまで親が働いている家の子が少なくなかった。夜ご飯はファミレスで一番安いメニューで済まして、ひたすらバスケットボールをした。

週末になると、毎週のように友達の家へ泊まりに行った。朝まで友達と話したり、ゲームをして遊ぶ。普段の掃除や洗濯や料理は、あまりしなくなった。カップラーメンが中学校生活の主食だった。

当時は、たまに父から渡されたお金で買いに行くお弁当が数少ない栄養分だった。

行くお店は決まっていた。商店街近くのお弁当屋さんだ。

お店には、友達のお母さんがパートで働いていた。渡されるお金が少なかったから、僕は一番安いお弁当を頼むようにしていた。でも、友達のお母さんはお弁当にからあげをこっそり2個入れてくれる。

友達のお母さんは何も言わないけど、『今日も入れておいたからね』と僕にアイコンタクトをしてくれる。僕も『ありがとう』とアイコンタクトを返して店を出る。家に帰って食べるからあげは、美味しくて今でも忘れられない。お弁当には、からあげ以上の温もりが詰め込められていた。

-母が亡くなって15年が経つ今日、孤立しそうになっていた僕が人生を投げ出さずに済んだ理由は、このささやかなストーリーの積み重ねがあったからだと思う。

あの地域のおばちゃんは、お米の洗い方を教えてくれた。あの友達のお母さんは、毎週のように泊まりに行っても温かく迎え入れてくれた。あの中学校の先生は、混ざり合う複雑な感情をそのまま受け止めて静かに話を聴いてくれた。何か大きな出来事や支援があった訳ではない。今になって思い出す本当に小さなストーリーも多くある。

大学卒業後、仕事を始めて1年が経とうとする頃、ふとした瞬間に僕は大きな発見をした。

『きっと、僕はお母さんに認められたかったんだな。』

肩にのしかかっていた重圧感は、この日を待っていたかのようにほぐれていった。

その時は何か出来事があったからではなく、不思議な気持ちもあった。でも、振り返ると『絶え間ない小さな支え』があったからこそ、小さな瞬間に自分でそのことに気付くことができたのだと、今は感じている。

あの時から母に対して『ごめんなさい』しか言えなかった。

痛みは今もある。完全に乗り越えられた訳ではないし、乗り越えるものでもないのかもしれない。

それでも、15年を迎えようとする今、僕は母に『ありがとう』と言いたい。

そして、これから前へ進もうとするとき、僕は何度でも思い出すだろう。

あのときのささやかなストーリーと、小さな支えを。本当にありがとう。

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